今日も悪魔に恋してる 〜塩対応な先輩は、絶対に好きと囁かない~
皆と別れたあと、置き忘れていたポーチを取りに会社に戻った。
中には家の鍵も入っている。
デスクに置いてあったのを無事に回収し、帰路に着こうと廊下に出た。
(あれ?……この匂い)
辿っていった先は、外階段へ続く扉。
開けた途端、夜風と一緒に煙草の匂いが流れ込んできた。
踊り場では、手すりに体を預けた佐久間主任が一服していた。
長い指に挟まれた煙草から、灰がぽとりと灰皿へ落ちる。
「……いた」
「何や用?」
一瞬、目を見張ったが、いつもと変わらない漆黒の瞳があたしを見る。
「主任って、ほんと誰にもなびかないんですね」
「何の話?」
考えていたことがそのまま口から出て、自分自身が「何の話?!」ってなってる。
でも、考えるより先に、口が勝手に言葉を紡いでいく。
「今日聞いたんです。主任、告白されても全部断ってるって」
「せやな」
「……誰とも付き合わないんですか?」
「付き合わへん」
感じたことがない痛みが、胸の奥に響く。
さっきまで掴めなかった気持ちが、目の前に本人がいるだけで、急に輪郭を持ちはじめる。
「……あたしでも?」
「は?」
明らかに怪訝な顔になっている。
言うつもりなんてなかったのに、止められなかった。
「あたしが、好きだと……言ってもですか?」
まるで、この踊り場だけ、サイレント映画みたいに喧騒がピタリと消えた。
漆黒の瞳が、あたしを見ている。
長いようで、ほんの数秒。
「無理や」
視線を外し、主任が煙草を口に咥える。
指先から立ち昇る細い煙を見ているうちに、あたしの声まで消えてしまった。
無意識に、チョコを入れたポケットを握る。
「早よ帰れ」
そう言って、そのまま階段を上がっていく。
月明かりの影に隠されて、主任の表情は見えなかった。
「……佐久間主任」
背中はもう見えない。
それでも、残されたタバコとシトラスの香りが、あたしをここから離してくれなかった。
中には家の鍵も入っている。
デスクに置いてあったのを無事に回収し、帰路に着こうと廊下に出た。
(あれ?……この匂い)
辿っていった先は、外階段へ続く扉。
開けた途端、夜風と一緒に煙草の匂いが流れ込んできた。
踊り場では、手すりに体を預けた佐久間主任が一服していた。
長い指に挟まれた煙草から、灰がぽとりと灰皿へ落ちる。
「……いた」
「何や用?」
一瞬、目を見張ったが、いつもと変わらない漆黒の瞳があたしを見る。
「主任って、ほんと誰にもなびかないんですね」
「何の話?」
考えていたことがそのまま口から出て、自分自身が「何の話?!」ってなってる。
でも、考えるより先に、口が勝手に言葉を紡いでいく。
「今日聞いたんです。主任、告白されても全部断ってるって」
「せやな」
「……誰とも付き合わないんですか?」
「付き合わへん」
感じたことがない痛みが、胸の奥に響く。
さっきまで掴めなかった気持ちが、目の前に本人がいるだけで、急に輪郭を持ちはじめる。
「……あたしでも?」
「は?」
明らかに怪訝な顔になっている。
言うつもりなんてなかったのに、止められなかった。
「あたしが、好きだと……言ってもですか?」
まるで、この踊り場だけ、サイレント映画みたいに喧騒がピタリと消えた。
漆黒の瞳が、あたしを見ている。
長いようで、ほんの数秒。
「無理や」
視線を外し、主任が煙草を口に咥える。
指先から立ち昇る細い煙を見ているうちに、あたしの声まで消えてしまった。
無意識に、チョコを入れたポケットを握る。
「早よ帰れ」
そう言って、そのまま階段を上がっていく。
月明かりの影に隠されて、主任の表情は見えなかった。
「……佐久間主任」
背中はもう見えない。
それでも、残されたタバコとシトラスの香りが、あたしをここから離してくれなかった。