今日も悪魔に恋してる 〜塩対応な先輩は、絶対に好きと囁かない~
「あれ?まだ帰らないの?」
帰り支度を終えた山根さんが尋ねる。
「休憩室で、ひと息してから帰ろうかと……」
「悩み?俺で良ければ相談に乗るよ?」
「あのアイスココアが気に入ってて!自販機限定なんですよっ」
「……そっか」
山根さんの思いやる視線が眩しい。
多分……いやきっと、誤魔化せていない。
でも、「違うんです、本当は佐久間主任を探すんです」とは、もっと言えない。
今日一日、ずっとソワソワしていた自覚はあった。
会社にいても、あの人の姿や香りを探していた。
狙いを定める前の、あの一瞬の静けさみたいに。
当たるかどうかも、まだ分からないのに。
一種の願掛けみたいに、ポケットに入れたチョコをそっと握る。
そのまま山根さんに挨拶をしてフロアを出た。
(……ここにもいないか)
情シス部の人に退勤はしていないと聞いたから、まだ社内にいるはず。
休憩室にも、喫煙ルームにもいない。
サーバールームまで覗いてみたけれど、姿はなかった。
(あと、思い付くのは……)
最後に向かったのは、昨日の階段だった。
扉に手をかける前から、微かにあの匂いがする。
「いた……」
夜風の吹き抜ける踊り場。
昨日と同じ場所で、佐久間主任がタバコをふかしていた。
「用?」
「佐久間主任を探してました」
「何で」
「昨日のこと、もう一度話したくて」
「話すことない。終わりや」
形を変えながら、煙が二人の間を抜けていく。
手を伸ばしたところで、きっと掴めない。
「終わりません……だって、始まってもないんです」
「……」
「主任のこと、まだ全然分かりません」
「なら諦めろ」
「だから、知りたいんです」
灰皿の上で、煙草の灰が長くなっていた。
佐久間主任は落とそうともしない。
「冷たいし、言い方も怖いし、全然優しくないです」
「悪魔によう言うやん」
「でも、あたしが寒いことには気づくし、足元のコードも教えてくれるし。怒ったあとには、管理表も直してくれました」
「昨日だって『無理』って言ったのに……昼間はチョコくれたじゃないですか」
「だから、主任が言うことと、すること……どっちが本当なのか、もう少し知りたいです」
「……面倒くさ」