誰でもいい、にはなれなかった

第1部 突然、予定がなくなった

「ごめん、明日無理になった😭」

スマホに届いたメッセージを見て、しばらく固まった。

「……えぇ」

楽しみにしていた。

友達と会って、ご飯を食べて、適当に街をぶらついて。

そんな、何でもない休日。

それでも、その予定がなくなると。

明日の予定表は、驚くほど綺麗になった。

何もない。

本当に、何もない。

「暇だ……」

思わず口から出た。



仕方ない。

一人で過ごせばいい。

そう思ってスマホを眺める。

映画でも見ようか。

買い物でもしようか。

一人でどこかに行くのも悪くない。

いくらでも選択肢はある。

なのに明日は。

なんとなく、

誰かと遊びたい。

そんな気分だった。



「今日会える人とか、いないのかな」

ふと、そんなことを思った。

検索欄に、

「即日マッチ」

と打ち込んでみる。

すると。

思っていたよりたくさんのアプリが出てきた。

けれど、そのほとんどは恋愛系のマッチングアプリだった。

「……まあ、そうなるよな」

少し迷う。

恋人を探したいわけじゃない。

将来を考えた交際相手が欲しいわけでもない。

ただ。

明日暇になった。

だから。

誰かと遊べたらいい。

それだけだった。



それでも他に方法は思いつかず。

私は一つのアプリをインストールした。

登録を進める。

年齢。

趣味。

住んでいる場所。

そしてプロフィール写真。

「……めんどくさ」

自分の写真を選びながら、少し笑う。

こんなところに自分の写真を載せて。

知らない人に見られて。

その知らない人を、今度は自分が見る。

なんだか不思議だった。



登録が終わる。

たくさんのプロフィールが表示された。

写真。

年齢。

仕事。

趣味。

自己紹介。

「へぇ……」

普通にかっこいい人もいる。

話してみたら楽しそうな人もいる。

プロフィールの文章が面白い人もいる。

中には、

「この人となら普通に遊んでみたいかも」

と思う人もいた。



なのに。

指が動かない。

一人。

また一人。

プロフィールを開いては閉じる。

いいねを押そうとして。

やめる。

また別の人を見る。

そして。

またやめる。

「……なんで?」

自分でも分からない。

嫌な人だからじゃない。

好みじゃないからでもない。

むしろ。

「この人、普通に良さそう」

と思う人だっている。

なのに。

「いいね」を押すところだけ、どうしても指が止まる。



私は一度アプリを閉じた。

スマホを机の上に置く。

「……何してるんだろ」

明日暇だから。

誰かと遊びたいから。

そのために入れたアプリなのに。

一人も選べない。



しばらくして。

またスマホを手に取る。

もう一度アプリを開く。

「別に、いいじゃん」

小さく呟く。

一人くらい。

話してみればいい。

明日会うかどうかなんて、その後考えればいい。

ただの「いいね」だ。

それ以上でも、それ以下でもない。



今度は。

一人のプロフィールで指が止まった。

写真は自然だった。

自己紹介も、妙に作り込まれていない。

趣味も少し合いそうだった。

「……この人なら」

そう思った。

指を画面に近づける。

あと少し。

押すだけ。



なのに。

胸の奥が。

ほんの少しだけざわついた。

理由は分からない。

何かを思い出したわけでもない。

誰かの顔が浮かんだわけでもない。

ただ。

「この人と会って、その先に何かが始まったら」

そう考えた瞬間。

なぜか。

怖くなった。



私は指を止めた。

画面には、

「いいね」

の文字。

たったそれだけ。

それなのに。

そのボタンが。

妙に遠く見えた。
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