リフォーム営業マンの小さなドキドキ短編集

コンビニ③

「石井さん、今日も暑いですね」

「大変だけど、お互い頑張ろ」

いつの間にか、ネームプレートに書かれた苗字で声をかけるようになっていた。

石井さんは、俺の名前を知らない。

さすがに、わざわざ聞いてくることもない。

だから会話は、

「あの……」

とか、

「おはようございます」

から始まる。

それでも、お客と店員さん以上には、少しずつ距離が縮まっていた。

そんな現場も、あと数日で終わる。

ある日、俺はいつものようにコンビニへ行った。

「もうそろそろ、この現場も終わるよ」

石井さんに、そう呟いた。

「そっか……楽しみだったのにな」

石井さんが言う。

「また近くの現場があれば寄るよ」

「うん……」

少し寂しそうに見えた石井さんを後に、俺はコンビニを出た。

……まあ、寂しそうと決めつけていること自体、勘違いなのかもしれない。

でも、俺はそんな勘違いくらいが好きだ。

多分……いや、きっと勘違いなんだ。

石井さんは、俺に好意なんてない。

ただ俺は、その小さな勘違いのドキドキを胸にしまえるのなら。

しまっていいのなら。

また明日から、前向きに仕事ができる気がする。

これがいいんだ。

これくらいがいいんだ。

仕事の毎日に、ほんの少しだけ振りかける。

スパイスなんだ。

かけすぎたら、ダメなんだよな。


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