隣の席の佐竹くんには…
「えと…、さっきの土屋ってヤツに杉本要素感じて…、もし変態だったら梅沢さんが危ないかなと思って…それで…」

佐竹君は手で口元を隠したまま、必死になって話す。

目線が合わないようにしているのか、避けるように動かしている。

頬がなんとなく赤いのは気のせいだろうか。

「…って。余計なお世話だよね。別にオレが心配することじゃないのに…」

「……」

「とにかく、ごめん。さっきのことは忘れて」

「……うん…」

“もしかして、今のって…”

少しだけ、期待してしまった自分がいた。

でも。

”忘れて“

その一言で、全部なかったことにされる。

佐竹君にとっては意味のない言葉ってことなんだ。


でも…

(私にとっては、意味のあるものにしかならないんだよ…)

佐竹君の何気ない言葉や行動でも、全部意味のあるものに変わってしまう。

そのことをわかってほしい…。


「…佐竹君」

「ん…?」

ふぅ…と、小さく息を吐いてから佐竹君に視線を合わせる。

「…明日の球技大会が終わったら話したいことがあるんだけど…聞いてくれる?」

「え…、うん」

小首を傾げる佐竹君に、少しだけ笑みを浮かべる。


……伝えたい。

わかってほしい。

今、思うのはそれだけ。

佐竹君より少し前へ出て足を進める。

「そろそろ教室戻ろ」

「うん」と答える佐竹君の声を、背中で感じながら、そっと手首に触れる。

さっき佐竹君に掴まれた手の感触がよみがえる。

佐竹君に伝えないと、なにも始まらない。
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