隣の席の佐竹くんには…
徐々に呼吸が弱まっていくように顔を俯かせると、やがて小刻みに肩が震え始める。

「……いつ、気持ちが変わってしまったのですか…?」

「最初から松野さんのことは、ただの後輩としか見てなかったよ」

その言葉に、息を吹き返したように、松野さんが勢いよく顔を上げる。

「だ、だって…っ!あの日、私と約束を交わしたじゃないですか!!」

「約束…?」

「そうです!佐竹さんが一人で部室にいた、あの日です!あの時、私に言いましたよね?このことは誰にも言わないでほしいって」


「……—あ」

オレは、松野さんの言う“約束”をした日のことを思い出す。



…——髪型のせいで、部活に参加する事が許されていなかった時期。

私物を取りに、部員がいない時間を狙って部室に行った時があった。

部室に置かれた防具や匂いに、剣道ができないという辛い気持ちが揺れ動いた。

(この髪を変えればいいだけの話なんだけどな…)

部室に置いてある鏡に、前髪を上げた自分の顔を映していた時、

『…えっ…!!佐竹……先輩…?』

松野さんに見られてしまった。

部室にこっそり入っているところを見られて、焦ってしまい…

『このこと…誰にも言わないでくれる?』

『…えっ』

『秘密にしておいてもらえると…助かるんだけど…』

『わ、わかりました…!“二人だけの秘密”にしましょう!』

『共犯みたいなことさせてごめんね』

『い、いえ!むしろ喜んでお受けしますっ!誰にも言わないと約束します!』

…——あの日のことを言ってるんだ。

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