隣の席の佐竹くんには…
「……私ね、佐竹君の嬉しそうな顔見ちゃうと……可愛いなって思っちゃって。でも、女の子みたいって意味じゃないからね」
「……」
「ごめんね。可愛いって思われるの嫌なのに……」
少しの沈黙の後、
「…あーあ、まいったな」
小さく笑う声がした。
拒絶でも、動揺でもない、どこか観念したような響き。
「……梅沢さん、こっち向いて」
恐る恐る目を開けながら顔を向けた、その瞬間。
佐竹君の顔が、思っていたより近かった。
それに気づくより先に、唇に柔らかい感触が触れた。
(……えっ)
無意識の中で指先だけが自分の口元へと動いていた。
ほのかにコーヒーの香りを感じると、ボヤけていた思考と佐竹君の顔が鮮明になっていく。
(…さっき、キスした?)
ある意味、表情が“無”になっていると思う。
そのまま、固まったままでいると、佐竹君が私の両頬に手を添えてくる。
彼が私に向ける表情は、怒りでも悲しみでもなく。
嬉しさの中に、どこか悪戯っぽさが混ざった小悪魔な笑みを浮かべていた。