これからの色
第3話
気分転換の花火大会の後は、ほとんど学校の図書室で過ごした。
体育館の前を通ると、ボールが弾む音や掛け声が聞こえた。
ついこの前までこの中にいたのにな。
部外者になった俺は、毎日体育館を素通りして図書室へ向かった。
まるで判を押したような夏休みを過ごし、受験生の夏は終わりを告げた。
2学期に入るとすぐに文化祭があった。
俺たちのクラスはお菓子屋をすることになった。
スーパーで買ってきた個包装のお菓子の詰め合わせを作って、1個100円で売る。
「大木くん、ごめん手伝ってー。私たちじゃ背が足りなーい」
「どうすんの?」
「この布、上の方を画鋲で留めてー」
「OK」
椅子の上に立ち、手を伸ばす。
指示通りに止めていくと、
「さすが!助かるー」
と女子が口々に言った。
みんなで文化祭の準備をするのは楽しかった。
段ボールを切ったり、お菓子を詰めたり。
暗くなるまでみんなと教室に残っていた。
それだけのことが、なんだか特別だった。
当日の役割分担で、俺は呼び込み係にされた。
「大木くん目当てで来てくれるから!」
と女子たちが強引に決めてしまった。
なぜか女子にウサギ耳のカチューシャを付けられた。
「これ、いる?」
慣れないカチューシャに戸惑う。
「かっこかわいいは最強」
「売り上げ貢献だと思って」
女子が口々に言う。
遊ばれているとしか思えないのだが。
まあ、いっか。
今日は文化祭だし。
ウサ耳を付けて廊下に出ると、やっぱりざわついた。
「ちょ、大木くん、それは反則」
「なんでそのウサ耳が似合っちゃうの」
女子たちがざわつく一方で、
「大木ー!バニーデビューかぁ」
男子どもがからかってくる。
「本日デビューなんで、お手柔らかに」
わざとしなやかに言ってやった。
呼び込みを始めると、すぐに人が集まった。
それはお菓子目当てではなく俺目当てだった。
「ほらほら、あの人」
「かっこいい」
「ウサ耳かわいい」
嫌でも視線を感じる。
ああ、まただ。
すると、
「すみません」
女子が声をかけてきた。
上履きを見ると1年生だった。
「一緒に写真撮ってもらえませんか?」
顔を真っ赤にしている。
こんな耳をつけてる俺の方がよっぽど恥ずかしいぞ?
「いいよ」
彼女の隣に並ぶと、友達がシャッターを切った。
「ありがとうございました」
頭を下げて去っていく。
「やった!」
「めっちゃかっこよかったね!」
と話しているのが聞こえた。
ひとり応じたのがいけなかったか、ちょっとした写真の列ができてしまった。
すると、教室の中の女子が、
「大木くん、中入って、中」
「え?なに?」
「教室入って」
言われるがまま、教室に入る。
すると、その女子が、
「バニーくんとの撮影希望の人はこちらですよー!お菓子買うと特典つきまーす!」
とアナウンスした。
……え?
俺、特典?
あっという間に女子の列ができた。
お菓子の売り上げは好調、だけどさ。
……俺って、なんなの?
俺の隣に並んでカメラに収まる彼女たちは、みんな嬉しそうな顔をする。
でも、それが目の前の出来事とは思えなかった。
ちょっと離れて眺めてる俺がいた。
これ、俺じゃなくてもいいんじゃない?
等身大パネルでも置いとけば?
その時、教室の入口に早紀がいるのに気がついた。
ごめん、これじゃいっしょに回れないね。
早紀に手を合わせて謝ろうとした時、早紀は困ったような、でも、まんざらでもないような表情をした。
え。
どうして。
俺は、売り上げのために笑顔を作り続けた。
文化祭が終わったあと、ようやく早紀と話せた。
「歩、すごい人気だったね」
「いっしょに回れなくてごめん」
「ううん。大丈夫だよ」
「さすがにちょっと疲れた」
「お疲れさま。そりゃ疲れるよね。列になってたもん」
「うん」
「私の後輩も並んでたらしいよ」
早紀はどことなく嬉しそうだ。
「そうだったんだ」
「後輩、歩のこと、めっちゃかっこいいって言ってた」
「うん」
「なんか、幸せ」
「なんで?」
「こんなかっこいい彼氏がいるんだもん」
その言葉に、俺の心は軋んだ。
早紀は何も悪くない。
わかってる。
わかってるけど。
どうしてこんなに苦しいんだろう。
体育館の前を通ると、ボールが弾む音や掛け声が聞こえた。
ついこの前までこの中にいたのにな。
部外者になった俺は、毎日体育館を素通りして図書室へ向かった。
まるで判を押したような夏休みを過ごし、受験生の夏は終わりを告げた。
2学期に入るとすぐに文化祭があった。
俺たちのクラスはお菓子屋をすることになった。
スーパーで買ってきた個包装のお菓子の詰め合わせを作って、1個100円で売る。
「大木くん、ごめん手伝ってー。私たちじゃ背が足りなーい」
「どうすんの?」
「この布、上の方を画鋲で留めてー」
「OK」
椅子の上に立ち、手を伸ばす。
指示通りに止めていくと、
「さすが!助かるー」
と女子が口々に言った。
みんなで文化祭の準備をするのは楽しかった。
段ボールを切ったり、お菓子を詰めたり。
暗くなるまでみんなと教室に残っていた。
それだけのことが、なんだか特別だった。
当日の役割分担で、俺は呼び込み係にされた。
「大木くん目当てで来てくれるから!」
と女子たちが強引に決めてしまった。
なぜか女子にウサギ耳のカチューシャを付けられた。
「これ、いる?」
慣れないカチューシャに戸惑う。
「かっこかわいいは最強」
「売り上げ貢献だと思って」
女子が口々に言う。
遊ばれているとしか思えないのだが。
まあ、いっか。
今日は文化祭だし。
ウサ耳を付けて廊下に出ると、やっぱりざわついた。
「ちょ、大木くん、それは反則」
「なんでそのウサ耳が似合っちゃうの」
女子たちがざわつく一方で、
「大木ー!バニーデビューかぁ」
男子どもがからかってくる。
「本日デビューなんで、お手柔らかに」
わざとしなやかに言ってやった。
呼び込みを始めると、すぐに人が集まった。
それはお菓子目当てではなく俺目当てだった。
「ほらほら、あの人」
「かっこいい」
「ウサ耳かわいい」
嫌でも視線を感じる。
ああ、まただ。
すると、
「すみません」
女子が声をかけてきた。
上履きを見ると1年生だった。
「一緒に写真撮ってもらえませんか?」
顔を真っ赤にしている。
こんな耳をつけてる俺の方がよっぽど恥ずかしいぞ?
「いいよ」
彼女の隣に並ぶと、友達がシャッターを切った。
「ありがとうございました」
頭を下げて去っていく。
「やった!」
「めっちゃかっこよかったね!」
と話しているのが聞こえた。
ひとり応じたのがいけなかったか、ちょっとした写真の列ができてしまった。
すると、教室の中の女子が、
「大木くん、中入って、中」
「え?なに?」
「教室入って」
言われるがまま、教室に入る。
すると、その女子が、
「バニーくんとの撮影希望の人はこちらですよー!お菓子買うと特典つきまーす!」
とアナウンスした。
……え?
俺、特典?
あっという間に女子の列ができた。
お菓子の売り上げは好調、だけどさ。
……俺って、なんなの?
俺の隣に並んでカメラに収まる彼女たちは、みんな嬉しそうな顔をする。
でも、それが目の前の出来事とは思えなかった。
ちょっと離れて眺めてる俺がいた。
これ、俺じゃなくてもいいんじゃない?
等身大パネルでも置いとけば?
その時、教室の入口に早紀がいるのに気がついた。
ごめん、これじゃいっしょに回れないね。
早紀に手を合わせて謝ろうとした時、早紀は困ったような、でも、まんざらでもないような表情をした。
え。
どうして。
俺は、売り上げのために笑顔を作り続けた。
文化祭が終わったあと、ようやく早紀と話せた。
「歩、すごい人気だったね」
「いっしょに回れなくてごめん」
「ううん。大丈夫だよ」
「さすがにちょっと疲れた」
「お疲れさま。そりゃ疲れるよね。列になってたもん」
「うん」
「私の後輩も並んでたらしいよ」
早紀はどことなく嬉しそうだ。
「そうだったんだ」
「後輩、歩のこと、めっちゃかっこいいって言ってた」
「うん」
「なんか、幸せ」
「なんで?」
「こんなかっこいい彼氏がいるんだもん」
その言葉に、俺の心は軋んだ。
早紀は何も悪くない。
わかってる。
わかってるけど。
どうしてこんなに苦しいんだろう。