今日の恋、予報します。
 廊下を歩いていたときだった。


 「やば……」


 手に持っていたプリントが、何枚か床に落ちた。


 「あー……」


 しゃがもうとした、その瞬間。


 「大丈夫?」


 声がした。


 顔を上げる。


 そこに、君がいた。


 「これ、落ちてたよ」


 そう言って。


 君は床に散らばったプリントを拾い上げて、俺に差し出した。


 「……ありがとう」


 「ううん」


 君が笑った。


 その笑顔を見た瞬間。


 ――心臓が、跳ねた。


 「…………」


 何だ、今の。


 胸の奥が、一瞬で熱くなった。


 ただ、プリントを拾ってもらっただけ。


 ただ、笑いかけてもらっただけ。


 それなのに、どうして。


 「……?」


 君が不思議そうに首を傾げる。


 「どうしたの?」


 「いや……」


 言葉が出てこなかった。


 顔を見ていられなくて、視線を逸らす。


 「なんでもない」


 「そっか」


 君はまた笑った。


 そして。


 「じゃあね」


 手を振って、その場を去っていった。


 俺はしばらく、その背中を見つめていた。


 「…………」


 何だったんだ、今の。


 胸が、まだ変に速い。


 耳まで熱い気がする。


 俺は慌ててポケットからスマホを取り出した。


 朝の通知。



 ☀️ 快晴

 『今日は、恋に落ちるでしょう』



 「…………」


 画面を見る。


 そして。


 さっきの君の笑顔を思い出す。


 「……まさか」


 そんなわけない。


 そう思った。


 でも、その日から。


 俺は、君を目で追うようになった。


 教室ですれ違えば、なんとなく見てしまう。


 廊下で見かければ、少し嬉しくなる。


 誰かと話していると、なぜか気になる。


 胸が騒ぎ出す。


 たった一度。


 プリントを拾ってもらっただけなのに。


 「…………」


 いつの間にか、俺の中で君は特別になっていた。


 あの日の通知がなければ。


 俺はきっと、それを「恋」だと認めるのにもっと時間がかかったと思う。


 だから。


 あの日の予報は、たぶん正しかった。


 俺は確かに――


 あの日、恋に落ちた。



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