番外編・蓮くんの夏休み
番外編 蓮くんの夏休み
時は遡り。
これは入学時以来、
一度も実家に帰っていなかった安藤蓮。
夏休みの一幕である。
*
溶けてしまいそうな日差しの中。
いつもの制服ではなく私服に身を包み、濃い紫のパーカーにフードを深く被った青年。
安藤蓮は嫌々、仕方なく、これ以上なくめんどくさそうな面持ちでステラ寮前の庭園からおとぎ話の入り口のような門へと向かって歩いていた。
中から出るのだから正確には入口ではなく出口だが。
「暑い……めんどくさい……部屋に帰りたい」
ぶつぶつと愚痴を垂れ流しながらもその足は外へと向かって歩いていく。
蓮がステラの領域から出るのは入学時以来だった。
去年、入学してから今に至るまで。
長期連休に入れば毎回のように家族から顔を出してほしいと嘆願メールや電話がかかって来ていたが、そんな余裕もなかったし何より、自分がこの守られた空間から出ることを拒んだ。
人と関わること、家族と関わることすら逃げていた。
「でも……少しずつでも、外に……」
そう思えるようになったのはふみちゃんと出会ってから。
ふみちゃんは初めて会った時から自分に似てると思った。
人と話すと怯えるところとか、臆病なところとか。
だから、彼女と過ごすのはとても居心地が良かった。
自分をありのまま受け入れてもらえる気がして。
でも、彼女を見ていて
このままじゃダメだとも、思ったんだ。
執事制度が廃止になってから、この門からの送迎も無くなった。
だからといって自分で絶対歩かなきゃいけないわけでもない。
事前に申請しておけば、学内に車を呼ぶこともできる。
「蓮様、お久しぶりにございます」