目覚めたら、最推しの腕の中でした~1度終わった私の人生、もう一度恋をしました。~

第45話 ママの彼氏は、僕たちの最推しでした

「無理」

陽向が。

真顔で言った。

「さっきも聞いた」

「いや」

私の家のソファで。

両手を組んだまま。

陽向は。

珍しく。

落ち着きがない。

「やっぱ無理」

「何万人の前でライブする人が?」

「それとこれとは別!」

「テレビの生放送は?」

「いける」

「大きなステージは?」

「いける」

「五人の子どもに会うのは?」

「無理」

即答。

私は。

思わず。

吹き出した。

「あははっ!」

「笑い事じゃないから!」

「だって」

「陽向がこんなに緊張してるの」

「珍しいんだもん」

「するだろ!」

陽向が。

私を見る。

「美月の子どもだぞ?」

「うん」

「しかも五人!」

「うん」

「一人には」

指を一本立てる。

「すでに推されてる」

「星ね」

「で」

二本目。

「俺が美月の彼氏だって知ってるのも」

「星だけ」

「うん」

「残り四人には」

陽向が。

自分を指差す。

「今日突然」

「どうも」

「君たちのお母さんと付き合ってます」

「天城陽向ですって」

「言うんだぞ?」

私は。

想像した。

そして。

「……確かにすごい」

「だろ!?」

陽向が。

身を乗り出す。

「俺」

「アイドル人生で」

「今日が一番緊張するかもしれない」

「そこまで?」

「だって」

急に。

真剣な顔。

「嫌だって言われたらどうしよう」

私は。

笑うのをやめた。

「陽向……」

「美月のこと」

「もう取らないでって」

「言われたら」

「……」

「俺」

「何て言えばいいんだろ」

その一言で。

分かった。

陽向が。

怖がっている理由。

自分が。

受け入れてもらえるか。

それだけじゃない。

子どもたちを。

傷つけないか。

それが。

怖いんだ。

私は。

陽向の隣へ座った。

「ねえ」

「ん?」

「取らないよね?」

「当たり前だろ」

「じゃあ」

私は。

少し笑った。

「そのまま言えばいいよ」

「……そのまま?」

「うん」

「私は」

「子どもたちのママ」

「うん」

「陽向の彼女」

「……うん」

「どっちかになるんじゃない」

陽向を見る。

「両方」

「……」

「だから」

私は。

陽向の手を。

握った。

「陽向も」

「無理に」

「お父さんになろうとしなくていい」

「……」

「ただ」

「私の好きな人として」

「会ってくれたら」

「それでいい」

陽向は。

しばらく。

私を見ていた。

そして。

大きく。

息を吐く。

「……分かった」

「うん」

「でも緊張する」

「それはもう諦めて」

「ひど!」

私は。

笑った。

◇◇◇

待ち合わせは。

前回と同じ。

貸し切りの。

レンタルスペース。

先に。

私と陽向が。

到着した。

「……」

陽向。

立っている。

「座ったら?」

「無理」

「何で?」

「落ち着かない」

さっきから。

水を飲む。

時計を見る。

立つ。

歩く。

また。

時計を見る。

「陽向」

「何」

「学校の家庭訪問を待ってる親みたい」

「俺今」

「それより緊張してるから」

「知らないよ」

そのとき。

スマートフォンが。

震えた。

星。

『着いたよ』

「……来た」

私が言うと。

陽向が。

ぴたりと。

止まった。

「マジ?」

「帰らないでね」

「帰らない!」

コンコン。

ノック。

私が。

ドアへ向かう。

「はい」

開ける。

「ママ!」

星。

その後ろ。

湊。

そして。

他の子どもたち。

一番小さい子は。

私を見るなり。

「ママ!」

と。

駆け寄ってきた。

「うん」

私は。

しゃがんで。

受け止める。

ついこの前まで。

美月。

だったのに。

今は。

自然に。

ママ。

「今日ゲームする!」

「今日はね」

「ゲームだけじゃないよ」

「なんで?」

「会ってほしい人がいるの」

「だれ?」

その瞬間。

夫が。

部屋の奥を見る。

「……」

そして。

固まった。

当然。

そこに。

天城陽向が。

いる。

「どうも」

陽向が。

頭を下げる。

「……」

夫。

無言。

湊。

無言。

他の子どもたち。

無言。

一番小さい子だけ。

「だれ?」

星が。

思い切り。

噴き出した。

「ちょっと!」

陽向が。

地味に傷ついた顔。

私は。

笑いを堪える。

「この人は」

言いかける。

そのとき。

別の子が。

「あ!」

声を上げた。

「テレビの人!」

「そう!」

陽向が。

少し嬉しそう。

「テレビ出てる人!」

「名前なんやったっけ」

「そこ!?」

陽向の。

いつもの。

大きなリアクション。

子どもたちが。

笑う。

星も。

完全に。

笑っている。

「陽向くん」

星が。

教える。

「ASTERの」

「あー!」

「ママが好きやった人!」

「……」

一瞬で。

空気が。

止まった。

陽向。

私。

夫。

星。

全員。

固まる。

言った本人だけ。

何が問題なのか。

分かっていない。

「そうやろ?」

「……まあ」

私は。

苦笑する。

「好きだった」

陽向が。

小声で。

「過去形?」

「今は意味が違うの!」

「何が?」

湊が。

眉を寄せる。

「意味が違う?」

「……」

来た。

とうとう。

私は。

陽向を見る。

陽向も。

私を見る。

大丈夫。

私は。

一度。

息を吸った。

「今日」

「みんなに」

「会ってほしかったのは」

子どもたちを見る。

「陽向が」

「ママにとって」

「大切な人だから」

湊が。

少し。

表情を変える。

「大切?」

「うん」

星が。

もう。

ニヤニヤしている。

知ってるから。

「ママ」

「何?」

「ちゃんと言いなよ」

「星」

「自分で言うんでしょ?」

「……」

逃げ道を。

塞がれた。

私は。

陽向の隣に立つ。

そして。

子どもたちを。

まっすぐ見る。

「ママね」

「うん」

「陽向と」

一瞬。

言葉が。

詰まる。

でも。

ちゃんと言う。

「お付き合いしてる」

「……」

沈黙。

一秒。

二秒。

そして。

「えええええええ!?」

誰かの。

大声。

続けて。

「マジ!?」

「ママが!?」

「この人と!?」

「そうです!」

なぜか。

私も。

大声。

陽向は。

もう。

耳まで。

真っ赤だった。

一番小さい子だけ。

首を傾げる。

「おつきあいってなに?」

「……」

説明。

難しい。

「ママが」

少し考える。

「すごく好きな人」

「ふーん」

軽い。

「じゃあ」

その子が。

陽向を見る。

「ママのおともだち?」

「まあ」

私が答える前に。

陽向が。

しゃがんだ。

「今は」

優しく。

笑う。

「そんな感じでいいよ」

その言い方に。

私は。

少し。

胸が温かくなった。

◇◇◇

「ちょっと待って」

湊が。

まだ。

混乱している。

「ママ」

「うん」

「昔から」

陽向を指差す。

「この人好きやったやん」

「うん」

「テレビ見て」

「きゃーきゃー言っとった」

「……そんなに?」

「言っとった」

星が。

即答する。

「やめて」

陽向は。

嬉しそう。

「もっと聞きたい」

「陽向は黙って」

「でも」

湊が。

混乱したまま。

続ける。

「ほんまに」

「付き合っとるん?」

「うん」

「なんで?」

「なんでって……」

私は。

陽向を見る。

最初。

病院で。

目を覚ました。

この人の。

腕の中だった。

紗良と。

思われていた。

美月だと。

信じてもらえなくて。

ぶつかって。

泣いて。

一度。

いなくなって。

それでも。

また。

見つけてもらった。

一緒に。

ご飯を食べた。

歌った。

笑った。

弱いところを。

見せてもらった。

私も。

弱いところを。

見せられるようになった。

そして。

いつの間にか。

最推しではなく。

一人の男性として。

好きになっていた。

「……いっぱい」

私は。

少し笑った。

「いろんなことがあったから」

「それ説明になってない」

湊の。

冷静なツッコミ。

陽向が。

吹き出す。

「あははっ!」

「笑うとこじゃないよ!」

「ごめん!」

◇◇◇

すると。

今まで。

黙っていた子が。

陽向へ。

聞いた。

「ママのこと」

「うん?」

「ほんまに好きなん?」

部屋が。

静かになる。

陽向の顔から。

笑いが消えた。

「うん」

迷いなく。

答える。

「好き」

「どれくらい?」

「……」

陽向が。

少し考える。

「すげえ好き」

「それだけ?」

「え」

私は。

思わず。

笑いそうになる。

審査。

始まった。

陽向は。

私を見る。

助けを。

求める目。

私は。

首を振った。

自分で。

頑張って。

「えっと」

陽向が。

座り直す。

「美月って」

「……」

「自分のこと」

「すぐ後回しにするんだよ」

子どもたちが。

黙って聞く。

「みんなのためなら」

「我慢しようとするし」

「自分が辛くても」

「大丈夫って言うし」

「……」

「前は」

陽向が。

少し。

苦しそうな顔になる。

「一人で」

「いなくなろうとしたこともあった」

夫が。

私を見る。

子どもたちも。

少し。

表情を変える。

「でも」

陽向は。

続ける。

「最近は」

「ちゃんと」

「疲れたとか」

「怖いとか」

「会いたいとか」

「言えるようになった」

「……」

「俺」

「そういう美月が」

「好き」

胸が。

熱くなる。

「笑ってると」

「嬉しいし」

「泣いてたら」

「話聞きたいし」

「……」

「美月が」

子どもたちを見る。

「みんなの話してるときの顔も」

「すごい好き」

誰も。

何も言わない。

「俺」

陽向が。

少し。

緊張したように。

息を吸った。

「みんなのお父さんに」

「なろうと思って」

「今日来たわけじゃない」

夫の目が。

少し。

揺れる。

「みんなには」

「ちゃんと」

「お父さんがいるから」

「……」

「そこに」

「俺が入ろうとは」

「思ってない」

夫が。

ゆっくり。

陽向を見る。

「でも」

陽向が。

続ける。

「美月が」

「みんなを」

「世界で一番大事にしてることは」

「分かってる」

胸が。

きゅっとなる。

「だから」

「美月が大事にしてる人を」

「俺も」

「大事にしたい」

静かだった。

私は。

泣きそうになっていた。

星は。

もう。

目を潤ませている。

そして。

しばらくして。

一番小さい子が。

陽向に聞いた。

「ゲームする?」

「……え?」

「ゲーム」

「する?」

「する!」

陽向。

即答。

「じゃあいいよ」

「何が!?」

全員が。

笑った。

◇◇◇

「何がいいの?」

陽向が聞く。

「ママのすきなひと」

「……」

一番小さい子が。

あっさり。

言った。

「ゲームする人なら」

「いい」

「基準そこ!?」

私は。

笑った。

星も。

涙を拭いながら。

笑っている。

「陽向くん」

「ん?」

「合格だって」

「軽っ!」

でも。

陽向は。

本当に。

嬉しそうだった。

◇◇◇

それから。

ゲーム大会が。

始まった。

陽向。

子ども五人。

そして。

私。

夫は。

少し離れたところで。

その様子を見ている。

「陽向!」

「何!?」

「そこ!」

「分かってる!」

「負けてる!」

「まだいける!」

陽向。

本気。

子ども相手でも。

全力。

「よっしゃああああ!」

「うるさい!」

私が。

反射的に。

止める。

「えー!」

「室内!」

「はい」

一瞬で。

素直。

子どもたちが。

笑う。

「陽向くん」

湊が。

言う。

「ママに弱い?」

「弱くない」

「今」

「一発で黙ったやん」

「それは」

陽向が。

言葉に詰まる。

「彼女の言うこと」

「聞く男だから」

「何それ!」

私は。

顔が。

熱くなる。

「ママ」

星が。

ニヤニヤ。

「嬉しそう」

「嬉しくない」

「顔」

「見ないで!」

みんなが。

笑う。

その笑い声の中。

私は。

ふと。

夫を見た。

目が。

合う。

一瞬。

気まずい。

でも。

夫は。

ほんの少し。

笑った。

私は。

ゲームの休憩中。

夫のところへ。

近づいた。

「……大丈夫?」

聞く。

夫は。

子どもたちと。

ゲームをしている。

陽向を見る。

「まあ」

「……」

「変な感じはする」

「うん」

「昔」

少し。

苦笑する。

「お前がテレビ見ながら」

「あんなに好きやったやつが」

「今」

顎で。

陽向を示す。

「子どもらとゲームしとる」

「……私も」

「意味分からない」

夫が。

少し。

笑った。

「でも」

「うん」

「さっきの」

「……」

「お父さんになるつもりないって」

胸が。

少し。

緊張する。

「うん」

「正直」

夫が。

ゆっくり言う。

「ちょっと安心した」

「……そっか」

「俺」

「お前の恋愛に」

「口出す立場ちゃうけど」

「うん」

「子どもらの父親では」

「おるから」

「うん」

「そこ」

「ちゃんと」

「分かっとる人なら」

少し。

間。

「ええんちゃう」

胸の奥。

じんわり。

温かくなる。

「ありがとう」

「俺に」

「許可取らんでええ」

「許可じゃないよ」

私は。

少し笑った。

「子どもたちの父親として」

「どう思うか」

「知りたかった」

夫は。

少し。

目を細めた。

「……変わったな」

「またそれ?」

「前やったら」

「俺が嫌って言ったら」

「自分がやめようとしとった」

「……」

否定。

できない。

「今は?」

聞かれる。

私は。

子どもたちと。

笑っている。

陽向を見る。

そして。

答えた。

「嫌って言われたら」

「ちゃんと理由聞く」

「……」

「でも」

少し笑う。

「私が陽向を好きなのは」

「やめない」

夫が。

少し。

驚いたあと。

笑った。

「そっか」

「うん」

「それでええんちゃう」

◇◇◇

ゲームが。

一段落すると。

星が。

急に。

言った。

「ねえ」

「何?」

「せっかくだから」

スマートフォンを。

取り出す。

「みんなで写真撮らない?」

私は。

一瞬。

固まった。

「みんなで?」

「うん」

星が。

楽しそうに。

言う。

「前」

「ママと陽向くんと私で」

「撮ったでしょ?」

「うん」

「今度は」

周りを見る。

「みんなで」

胸が。

大きく鳴る。

子ども五人。

私。

陽向。

そして。

夫。

星が。

夫を見る。

「パパも」

「俺も?」

「当たり前やん」

「……」

夫が。

少し。

気まずそうに。

陽向を見る。

陽向も。

完全に。

固まっている。

「え」

陽向が。

小声。

「俺」

「入っていいの?」

その一言。

私は。

陽向を見る。

星が。

先に答えた。

「いいでしょ」

「……」

「ママの」

少し。

照れながら。

「大事な人なんでしょ?」

陽向の目が。

少し。

揺れる。

「……うん」

「じゃあ」

星が。

笑う。

「入って」

◇◇◇

スタッフも。

いない。

セルフタイマー。

スマートフォンを。

立てる。

「早く!」

「あと十秒!」

みんな。

慌てて。

並ぶ。

夫。

子どもたち。

私。

陽向。

どこに。

立てばいい?

一瞬。

迷った。

すると。

一番小さい子が。

私の手を。

掴む。

「ママここ!」

「うん」

私は。

子どもたちの。

真ん中へ。

陽向は。

少し。

端へ行こうとする。

でも。

星が。

腕を掴む。

「陽向くんこっち!」

「え!?」

「早く!」

「ちょ!」

陽向が。

私の隣へ。

一瞬。

手が。

触れる。

でも。

今日は。

恋人繋ぎはしない。

子どもたちの前。

夫もいる。

それでいい。

ただ。

肩が。

少し。

触れる。

「三!」

星が叫ぶ。

「二!」

「一!」

カシャ。

シャッター音。

「撮れた!」

全員。

スマートフォンのところへ。

集まる。

「見せて!」

「俺目閉じてない?」

「ママ泣きそう」

「泣いてない!」

「陽向くん顔でか」

「おい!」

「パパ笑ってない!」

「笑っとるわ!」

騒がしい。

うるさい。

懐かしい。

でも。

新しい。

私は。

画面を見る。

そこに。

今の私がいる。

昔の顔ではない。

一ノ瀬紗良の顔。

でも。

子どもたちの真ん中に。

ちゃんと。

私がいる。

その隣に。

陽向。

少し離れて。

夫。

不思議な。

写真。

普通の。

家族写真とは。

呼べないかもしれない。

でも。

「……好き」

私は。

小さく。

呟いた。

「何が?」

陽向が。

聞く。

私は。

写真を見る。

「この写真」

「……」

「すごく」

笑う。

「好き」

◇◇◇

帰る時間。

子どもたちが。

陽向の周りに。

集まる。

「またゲームしよ!」

「次は負けん!」

「今日負けてたやん」

「次は勝つ!」

「陽向くん」

星が。

少し。

意地悪そうに。

「ママのこと」

「ちゃんと大事にしてね」

「星!」

また。

その話!?

でも。

陽向は。

笑わなかった。

真っ直ぐ。

星を見る。

「うん」

そして。

他の子どもたちも。

見る。

「大事にする」

胸が。

熱くなる。

そのとき。

湊が。

言った。

「でも」

「うん?」

「ママ泣かしたら」

陽向。

固まる。

「……はい」

「僕ら五人おるから」

「……はい」

「覚えといて」

陽向が。

私を見る。

「美月」

「何?」

「圧がすごい」

私は。

吹き出した。

「頑張って」

「助けてよ!」

みんなが。

笑った。

夫まで。

少し。

笑っていた。

◇◇◇

最後。

一番小さい子が。

陽向の服を。

引っ張った。

「ひなた」

「え?」

陽向が。

しゃがむ。

「今」

「名前呼んだ?」

「うん」

「なに?」

「ママのこと」

「うん」

「すき?」

陽向が。

一瞬。

私を見る。

それから。

子どもの目を。

まっすぐ見る。

「好きだよ」

「いっぱい?」

「いっぱい」

「ぼくも」

「え?」

「ママ」

少し。

考えて。

「いっぱいすき」

涙が。

出そうになった。

陽向が。

優しく。

笑う。

「そっか」

「じゃあ」

小さな手を。

差し出す。

「一緒だな」

一番小さい子が。

その手を。

握る。

「いっしょ」

その光景を。

私は。

何も言えず。

見ていた。

陽向は。

私から。

子どもたちを。

奪う人じゃない。

子どもたちも。

陽向から。

私を。

奪う存在じゃない。

愛情は。

席取りゲームじゃない。

誰かを。

大切にしたら。

別の誰かへの。

愛が減るわけじゃない。

私は。

五人の子どもたちを。

愛している。

陽向を。

愛している。

そして。

それぞれ。

全然違う。

でも。

全部。

本物。

◇◇◇

帰宅後。

陽向は。

私の部屋へ。

寄った。

ドアを閉めた瞬間。

壁に。

背中を預ける。

「……終わった」

「何その言い方」

「緊張したぁぁぁ……」

ずるずる。

しゃがみ込む。

「そんなに?」

「そんなに!」

私は。

笑いながら。

陽向の前へ。

しゃがんだ。

「でも」

「何?」

「人気だったじゃん」

「ゲーム要員としてね!」

「一番小さい子」

「陽向って呼んでたよ」

「……」

陽向が。

少し。

嬉しそうに。

笑った。

「うん」

「湊にも」

「ママ泣かすなって」

「脅されてたし」

「それ嬉しい話?」

「私は嬉しい」

「俺はプレッシャー!」

笑う。

でも。

少しして。

陽向が。

真面目な顔になる。

「美月」

「何?」

「今日」

「俺」

「行ってよかった?」

私は。

迷わなかった。

「うん」

「本当に?」

「うん」

私は。

陽向の手を取る。

「私の」

「二つの大事な場所が」

「今日」

「初めて」

胸に。

手を当てる。

「一緒になった気がした」

「……」

「母親の私と」

「陽向を好きな私」

「……うん」

「今まで」

「別々にしなきゃって」

「どこかで思ってた」

「うん」

「でも」

私は。

笑った。

「どっちも私だった」

陽向の目が。

優しくなる。

「うん」

「知ってる」

「……」

「ずっと言ってるじゃん」

陽向が。

私の手を。

握る。

「全部」

「美月だって」

涙が。

少し。

滲んだ。

「うん」

◇◇◇

その夜。

星から。

今日撮った写真が。

送られてきた。

『今日の写真!』

続けて。

『なんか不思議なメンバーだけど(笑)』

私は。

笑う。

さらに。

『でも私、この写真好き』

私も。

同じ。

『ママも好き』

送る。

すると。

すぐに。

『あと』

『みんな陽向くんのこと嫌じゃなかったみたい』

「……」

胸が。

少し。

軽くなる。

『一番下なんて、またゲームしたいって』

私は。

隣で。

スマートフォンを見ている。

陽向へ。

そのまま見せた。

「ほら」

「……マジ?」

「うん」

陽向が。

ものすごく。

嬉しそうに笑う。

「よっしゃ!」

「声」

「あ」

慌てて。

小さくなる。

私は。

そんな陽向を。

見ながら。

思った。

一度目の人生と。

二度目の人生。

ずっと。

別の世界だと。

思っていた。

でも。

今日。

初めて。

同じ写真の中に。

収まった。

五人の子どもたち。

前の夫。

今の私。

そして。

陽向。

過去を。

消さなくていい。

新しい幸せのために。

古い大切なものを。

捨てなくていい。

全部を。

抱えたまま。

前へ。

進んでいい。

私は。

画面の中の。

自分を見る。

そして。

そっと。

笑った。

これが。

今の。

高瀬美月の。

家族の形。

まだ。

名前なんて。

つけられない。

でも。

それでいい。

大切な人たちが。

少しずつ。

お互いを知って。

少しずつ。

同じ場所で。

笑えるようになれば。

それで。

十分だから。

そして。

私は。

まだ知らなかった。

この一枚の写真が。

後に。

私と陽向の未来を。

大きく動かす。

きっかけに。

なることを。
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