目覚めたら、最推しの腕の中でした~1度終わった私の人生、もう一度恋をしました。~

第57話 あの日を、幸せな記念日に

「私と紗良が」

「事故に遭った日」

部屋が。

静かになった。

担当者も。

陽向のマネージャーも。

何も言わない。

陽向だけが。

私を。

じっと見ている。

あの日。

私は。

死んだ。

少なくとも。

高瀬美月という人間は。

世間では。

あの日。

人生を終えた。

そして。

一ノ瀬紗良も。

あの日。

大きな事故に遭った。

もし。

あの事故が。

なかったら。

私は。

今。

ここにはいない。

陽向の。

隣にも。

いない。

だから。

私にとって。

あの日は。

死んだ日で。

生まれ直した日。

でも。

「……美月」

陽向が。

静かに。

呼ぶ。

「本当に」

「その日でいい?」

「うん」

私は。

すぐには。

笑わなかった。

ちゃんと。

考える。

「正直」

「今まで」

「あの日が来るの」

「怖かった」

「……うん」

「子どもたちと」

「離れた日だから」

胸が。

少し。

痛む。

「私の身体が」

「なくなった日で」

「みんなが」

「ママを失った日」

「……」

「紗良にとっても」

「事故に遭った日」

「うん」

「だから」

私は。

膝の上で。

手を握る。

「ずっと」

「悲しい日として」

「残ると思ってた」

陽向は。

黙って。

聞いている。

「でも」

私は。

顔を上げた。

「悲しかったことを」

「消したいわけじゃない」

「……」

「子どもたちが」

「泣いたことも」

「前の夫が」

「苦しかったことも」

「私が」

「会いたくて」

「泣いたことも」

「全部」

「本当だから」

「うん」

「でも」

少し。

笑う。

「その日に」

「もう一個」

「思い出を」

「増やしても」

「いいんじゃないかなって」

陽向の。

目が。

少し。

揺れた。

「美月」

「うん」

「それって」

「俺との結婚を」

少し。

声を。

詰まらせる。

「美月が」

「生き直した日の」

「続きにしてくれるってこと?」

胸が。

温かくなった。

私は。

頷いた。

「そうしたい」

◇◇◇

陽向は。

しばらく。

何も言わなかった。

そして。

突然。

両手で。

顔を覆った。

「……無理」

「何が?」

「泣く」

「今?」

「今」

マネージャーが。

ため息をつく。

「まだ」

「入籍日決めただけだぞ」

「分かってます!」

「じゃあ泣くな」

「無理です!」

私は。

思わず。

笑った。

でも。

私も。

少し。

泣きそうだった。

「じゃあ」

担当者が。

確認する。

「お二人の希望としては」

「事故の日を」

「入籍日にしたい」

「ということで」

「はい」

私は。

答えた。

陽向も。

「はい」

と。

続く。

「ただ」

担当者が。

資料を見る。

「その日は」

「今年ですと」

「平日ですね」

「平日?」

陽向が。

聞く。

「仕事」

「ある?」

「現時点では」

「調整可能です」

「でも」

私は。

言った。

「仕事」

「無理に」

「休まなくても」

「いいんじゃない?」

陽向が。

私を見る。

「え?」

「婚姻届」

「出したあと」

「普通に」

「仕事しても」

「いいかなって」

「……」

陽向。

少し。

呆然。

「美月」

「何?」

「結婚した日に」

「仕事行くの?」

「だって」

「予定入ってたら」

「行くでしょ」

「俺」

陽向が。

ものすごく。

真剣な顔。

「その日くらい」

「一日」

「美月といたい」

「……」

「ダメ?」

その言い方。

ずるい。

「……ダメじゃない」

「じゃあ休もう」

「即決」

「そこは!」

担当者たちが。

少し。

笑った。

◇◇◇

会議が。

終わって。

二人で。

外へ出る。

エレベーターの中。

陽向が。

私の手を。

握った。

「美月」

「何?」

「本当に」

「ありがとう」

「何が?」

「あの日」

「選んでくれて」

「……」

私は。

少し。

考える。

「陽向は」

「嫌じゃない?」

「何が?」

「あの日」

「紗良の事故の日でも」

「あるから」

陽向の。

表情が。

少し。

変わった。

紗良。

陽向の。

幼い頃からの。

大切な人。

恋愛では。

なかった。

でも。

人生の。

大きな一部。

「嫌じゃない」

陽向は。

ゆっくり。

答えた。

「俺にとっても」

「あの日は」

「紗良を」

「失った日だから」

「……うん」

「でも」

「同時に」

私を見る。

「美月に」

「会った日」

胸が。

鳴った。

「最初は」

「紗良だと思ったけど」

「うん」

「それでも」

少し。

笑う。

「あの日」

「美月が」

「俺の前に」

「来た」

「……」

「だから」

陽向が。

私の手を。

少し。

強く握る。

「悲しい日だけに」

「しなくていい」

私は。

頷いた。

「うん」

◇◇◇

その日の夜。

私は。

星へ。

電話をした。

『もしもし?』

「星」

『何?』

「入籍の日」

『決まったの!?』

声が。

一気に。

大きくなる。

「候補だけど」

『いつ?』

私は。

少し。

息を吸った。

「あの日」

『……』

電話の向こうが。

静かになる。

「ママが」

「事故に遭った日」

しばらく。

返事が。

なかった。

「星?」

『……なんで?』

責める声では。

ない。

ただ。

驚いている。

「悲しい日だから」

『うん』

「だから」

私は。

ゆっくり。

話した。

「悲しいことを」

「忘れるためじゃなくて」

「その日に」

「違う思い出も」

「増やしたいの」

『……』

「ママにとって」

「あの日は」

「みんなと」

「離れた日」

「……うん」

「でも」

「陽向に」

「出会った日でもある」

『うん』

「二度目の人生が」

「始まった日」

少し。

間。

「だから」

「今度は」

「陽向と」

「新しい人生を」

「始める日に」

「したいなって」

星が。

小さく。

息を吐いた。

『……ママ』

「何?」

『私』

少し。

声が。

震える。

『あの日』

『嫌いだった』

胸が。

痛む。

「うん」

『毎年』

『あの日が来ると』

『ママが死んだ日って』

『思ってた』

「……うん」

『だから』

少し。

鼻を。

すする音。

『その日が』

『ママの結婚記念日に』

『なるの』

「……」

私は。

黙って。

待つ。

『最初』

『変って思った』

「うん」

『でも』

星が。

少し。

笑った。

『来年から』

『ママが死んだ日だけじゃ』

『なくなるんだね』

涙が。

滲んだ。

「うん」

『ママが』

『幸せになるって』

『決めた日にも』

『なるんだ』

「……うん」

『じゃあ』

明るい。

声になる。

『いいと思う』

「本当?」

『うん』

『私』

『その日のこと』

『少しだけ』

『嫌いじゃなくなれるかも』

涙が。

頬を。

流れた。

「星」

『何?』

「ありがとう」

『ママが決めたんでしょ』

「うん」

『じゃあ』

少し。

いたずらっぽい。

声。

『陽向くんにも』

『ちゃんと』

『毎年覚えさせないとね』

「絶対」

「忘れないと思う」

『確かに』

二人で。

笑った。

◇◇◇

その数日後。

子どもたちにも。

伝えた。

全員。

揃っている日に。

「ママ」

「結婚する日」

「決めたの?」

「うん」

一人が。

聞く。

「いつ?」

私は。

日付を。

伝えた。

少し。

大きい子たちは。

すぐに。

意味に。

気づいた。

「……それ」

「うん」

「ママが」

「死んだ日?」

一番小さい子が。

不思議そうに。

私を見る。

「ママ」

「死んだの?」

「……」

説明。

難しい。

星が。

横から。

「前のママの身体が」

「いなくなった日」

と。

優しく言う。

一番小さい子は。

少し。

考える。

「でも」

「ママいるよ?」

「うん」

私は。

笑った。

「いるよ」

「じゃあ」

「死んでない?」

「……」

みんなが。

少し。

困った顔。

私は。

その子の。

頭を撫でる。

「ママね」

「一回」

「すごく遠くに」

「行っちゃったの」

「うん」

「でも」

「戻ってきた」

「うん」

「それで」

「その日に」

「陽向と」

「結婚することにした」

「なんで?」

「新しく」

「始める日に」

「したいから」

一番小さい子。

少し。

考える。

そして。

「じゃあ」

「おたんじょうび?」

「え?」

「ママの」

「新しいおたんじょうび」

部屋が。

静かになった。

私は。

目を。

見開く。

星も。

夫も。

ほかの子たちも。

その子を見る。

「……そうかも」

私は。

笑った。

「二回目の」

「お誕生日みたいな日」

一番小さい子が。

嬉しそうに。

「じゃあケーキ!」

「結局それ?」

みんなが。

笑った。

でも。

私の胸には。

その言葉が。

残った。

新しい。

誕生日。

死んだ日。

じゃなく。

もう一度。

生き始めた日。

子どもの。

何気ない。

言葉が。

あの日の意味を。

少しだけ。

変えてくれた。

◇◇◇

そのあと。

前の夫と。

二人になる。

「……ほんまに」

夫が。

言った。

「あの日に」

「するんやな」

「うん」

「しんどくない?」

「少しは」

「……」

「でも」

私は。

子どもたちが。

遊ぶ姿を見る。

「あの日を」

「なかったことには」

「できないし」

「うん」

「だったら」

「悲しいだけの」

「日にしなくても」

「いいかなって」

夫は。

しばらく。

黙っていた。

そして。

「俺」

「毎年」

「あの日」

「仕事してても」

「時間」

「思い出してた」

胸が。

少し。

痛くなる。

「事故の連絡」

「来た時間とか」

「病院行った時間とか」

「……」

「全部」

「うん」

「今年から」

夫が。

少し。

苦笑する。

「天城さんとの」

「結婚記念日でも」

「あるんやな」

「……うん」

「変な感じ」

「私も」

二人。

少し。

笑う。

「でも」

夫が。

子どもたちを見る。

「ええんちゃう」

「……」

「あの日が」

「こいつらにとっても」

「ちょっとでも」

「違う日になるなら」

私は。

ゆっくり。

頷いた。

「ありがとう」

◇◇◇

そして。

入籍日を。

決めたことで。

次の話が。

一気に。

現実味を。

増した。

「式」

陽向が。

私の部屋で。

突然。

言った。

「……何?」

「結婚式」

「うん」

「したい?」

私は。

少し。

止まった。

結婚式。

白い。

ウェディングドレス。

たくさんの。

招待客。

誓い。

指輪。

「……分かんない」

「え?」

「前に」

「結婚したときも」

「式」

「してるから」

陽向が。

少し。

複雑そうに。

なる。

「そっか」

「うん」

「だから」

「二回目って」

「変じゃないかなって」

陽向の。

眉が。

寄った。

「何が?」

「だって」

「私」

「一回」

「結婚式してるし」

「美月」

「うん」

「俺は」

陽向が。

自分を。

指差す。

「初めて」

「……」

「俺」

「美月と」

「結婚式したい」

真っ直ぐ。

言われる。

胸が。

鳴った。

「でも」

「二回目とか」

「関係なくない?」

「……」

「前の結婚式を」

「消すわけじゃない」

「うん」

「俺との結婚は」

「俺との」

「新しい結婚だし」

「……」

「それに」

少し。

照れながら。

「俺」

「ウェディングドレスの」

「美月見たい」

「そこ?」

「めちゃくちゃ大事」

思わず。

笑った。

◇◇◇

「もし」

陽向が。

続ける。

「式するなら」

「誰呼びたい?」

私は。

考える。

「星たち」

「うん」

「五人とも」

「絶対」

「ASTERのみんな」

「うん」

「事務所の人」

「うん」

「ドラマの」

「お世話になった人も」

「神崎さん?」

陽向の。

声が。

一段。

低くなる。

私は。

笑った。

「呼んだらダメ?」

「ダメじゃない」

「顔」

「ダメって言ってる」

「言ってない!」

「じゃあ呼ぶ」

「……はい」

陽向が。

少し。

拗ねる。

「結婚式で」

「嫉妬しないでよ」

「努力します」

「まだ努力なんだ」

「神崎さんは」

「別枠」

「何の?」

「警戒対象」

「もう!」

二人で。

笑う。

そして。

私は。

少し。

言いにくそうに。

続けた。

「あと」

「うん」

「前の夫」

陽向の。

表情が。

少し。

変わる。

「……呼びたい?」

「分からない」

私は。

正直に。

言った。

「呼んだら」

「気まずいかなとも」

「思うし」

「うん」

「でも」

「子どもたちを」

「連れてきてもらうことも」

「あるかもしれない」

「うん」

「それに」

私は。

少し。

考える。

「私の人生の」

「大事な部分だった人だから」

「……」

「完全に」

「いなかったことにして」

「式をするのも」

「違う気がする」

陽向は。

少し。

黙った。

私は。

すぐに。

言う。

「でも」

「陽向が」

「嫌なら」

「美月」

止められる。

「俺が」

「嫌かどうかで」

「決めなくていい」

「……」

「まず」

「美月は」

「どうしたい?」

また。

その質問。

私は。

少し。

考える。

「選べるように」

「しておきたい」

「……」

「来るか」

「来ないかは」

「本人が」

「決められるように」

「招待は」

「したいかも」

陽向が。

ゆっくり。

頷いた。

「じゃあ」

「そうしよう」

「いいの?」

「うん」

少し。

苦笑する。

「たぶん」

「変な気持ちは」

「するけど」

「……」

「でも」

「美月の過去を」

「全部」

「俺だけのものに」

「塗り替えたいわけじゃないから」

胸が。

熱くなる。

「陽向」

「何?」

「ありがとう」

「うん」

「でも」

「?」

「神崎さんの席」

「俺から遠くして」

「まだ言う!?」

◇◇◇

それから。

結婚式について。

少しずつ。

話すようになった。

派手な。

芸能人らしい。

大きな式?

それとも。

身近な人だけの。

小さな式?

「俺」

陽向が。

言う。

「豪華さより」

「美月が」

「誰と」

「一緒にいたいか」

「大事だと思う」

「うん」

「だから」

「人数」

「そんな多くなくていい」

「私も」

「そう思う」

「じゃあ」

陽向が。

ノートへ。

書く。

『家族と大切な人たち』

その文字を。

私は。

じっと見た。

家族。

昔。

その言葉は。

私にとって。

守らなきゃ。

頑張らなきゃ。

我慢しなきゃ。

そんな。

責任と。

一緒に。

あった。

今は。

少し。

違う。

子どもたち。

陽向。

星。

ASTER。

私を。

支えてくれた。

人たち。

家族って。

一つの形じゃない。

血が。

繋がっている人。

昔。

夫婦だった人。

一緒に。

夢を追う仲間。

これから。

夫婦になる人。

全部。

同じ形じゃなくていい。

それぞれが。

違う場所に。

いていい。

◇◇◇

「美月」

陽向が。

ノートから。

顔を上げる。

「何?」

「式」

「する?」

私は。

少し。

考えた。

一度目の。

結婚式。

あの日の私も。

幸せだった。

それを。

否定しない。

でも。

今。

目の前にいる。

陽向と。

新しい。

誓いを。

交わしたい。

五人の子どもたちにも。

見てほしい。

私が。

母親であることを。

やめるんじゃなく。

そのまま。

新しい幸せを。

選ぶ姿を。

そして。

陽向の。

大切な人たちにも。

伝えたい。

この人と。

これから。

生きていきます。

「……したい」

陽向の。

目が。

大きくなる。

「本当?」

「うん」

私は。

笑った。

「結婚式」

「したい」

次の瞬間。

陽向が。

ものすごく。

嬉しそうに。

笑った。

「よっしゃ!」

「声大きい」

「だって!」

「ウェディングドレス!」

「そこから離れて」

「無理!」

私は。

笑った。

◇◇◇

そして。

私たちは。

まだ。

知らなかった。

この。

小さな。

結婚式の計画が。

ASTERのメンバー。

五人の子どもたち。

事務所の人たち。

神崎悠人。

そして。

来るかどうか。

最後まで。

迷うことになる。

前の夫まで。

それぞれの。

想いを。

少しずつ。

動かしていくことを。

入籍の日まで。

あと少し。

そして。

その先には。

私が。

もう一度。

ウェディングドレスを着て。

今度は。

誰かに。

連れていかれるのではなく。

自分の足で。

陽向のもとへ。

歩いていく日が。

待っていた。
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