目覚めたら、最推しの腕の中でした~1度終わった私の人生、もう一度恋をしました。~
第59話 明日、私はあなたの妻になる
結婚式まで。
あと三日。
なのに。
陽向は。
明らかに。
落ち着きがなかった。
「美月」
「何?」
「忘れ物ない?」
「まだ三日前だけど」
「指輪は?」
「当日持っていく」
「婚姻届は?」
「もう入籍したでしょ」
「そうだった!」
私は。
思わず。
笑った。
そう。
私たちは。
すでに。
夫婦になっている。
あの日。
私が。
一度目の人生を終え。
二度目の人生を。
始めた日。
その日に。
二人で。
婚姻届を。
出した。
戸籍に。
書かれた名前は。
高瀬美月では。
なかった。
それでも。
届を出す直前。
陽向は。
私を見て。
ちゃんと。
言った。
『美月』
『今日から』
『俺の奥さんになってください』
私は。
笑って。
答えた。
『はい』
紙に。
どんな名前が。
書かれていても。
あの日。
陽向と。
夫婦になったのは。
私。
高瀬美月。
だから。
結婚式は。
法律のためじゃない。
大切な人たちの前で。
私たちが。
これからを。
一緒に生きると。
伝える日。
「……陽向」
「何?」
「もう」
「夫なんだよね」
「……」
陽向が。
固まる。
「何?」
「もう一回」
「言わない」
「美月!」
「ふふっ」
まだ。
夫。
妻。
という言葉に。
二人とも。
慣れていない。
◇◇◇
一方。
結婚式の。
裏では。
ASTERの。
四人が。
何かを。
企んでいた。
「これ」
「絶対泣くよな」
「陽向は泣く」
「美月さんも」
「たぶん泣く」
「てか」
「俺らが」
「先に泣きそう」
会議室。
テーブルの上。
大量の。
写真。
動画。
メッセージ。
陽向の。
アイドルとしての。
十年以上。
デビュー前。
初ライブ。
初めての。
大きな会場。
五人で。
泣いた日。
笑った日。
失敗した日。
そして。
最近の。
陽向。
そこへ。
星から。
提供された。
美月の。
昔の写真が。
少しだけ。
加わっていた。
もちろん。
子どもたちの。
顔や。
家族の。
個人的な情報は。
式の中だけ。
外には。
絶対に。
出さない。
その約束で。
「これ」
一人が。
一枚の写真を。
持ち上げる。
「美月さん」
「ASTERのライブグッズ」
「持ってる?」
星が。
笑う。
「はい」
「これ」
「ママです」
そこには。
まだ。
高瀬美月だった頃の。
美月。
ASTERの。
ライブグッズを。
手にして。
笑っている。
陽向の。
メンバーカラー。
ピンク。
「……」
四人が。
黙る。
「これ」
「陽向に見せたら」
「終わるな」
「確実に」
星が。
少し笑った。
「ママも」
「たぶん泣きます」
「じゃあ採用」
「早い」
◇◇◇
サプライズは。
映像。
だけでは。
なかった。
「歌」
一人が。
言う。
「やっぱ」
「やる?」
「やるでしょ」
「披露宴で」
「ASTER四人だけ?」
「いや」
「陽向も」
「最後」
「引っ張り込む」
「新郎を?」
「絶対」
「嫌がる」
「でも」
「歌う」
全員。
分かっている。
陽向は。
嫌だと言いながら。
最終的には。
絶対。
歌う。
「曲は?」
一人が。
候補を。
出す。
陽向と。
美月が。
昔から。
好きだった。
ASTERの。
バラード。
あの日。
プロポーズの。
カラオケで。
陽向が。
美月一人のために。
歌った曲。
「これ」
「いいじゃん」
「でも」
星が。
少し。
驚く。
「ママ」
「この曲」
「すごく好きです」
四人が。
にやっとする。
「じゃあ」
「決まり」
◇◇◇
そして。
もう一人。
披露宴の。
招待客で。
妙に。
楽しそうな人が。
いた。
神崎悠人。
「天城さん」
撮影の。
休憩中。
神崎が。
私へ。
聞いた。
「結婚式」
「緊張してる?」
「私に聞くんですか?」
「だって」
「天城さん」
「絶対」
「今頃」
「一人で」
「緊張してそう」
想像して。
笑ってしまう。
「してると思います」
「やっぱり」
神崎が。
コーヒーを。
飲む。
「でも」
「結婚式で」
「俺」
「ちゃんと」
「呼んでもらえるんだね」
「呼びましたよ」
「天城さん」
「嫌がらなかった?」
「ちょっと」
「やっぱり」
「でも」
私は。
笑う。
「私が」
「来てほしいって」
「言ったから」
「……」
神崎が。
少し。
目を細める。
「変わったね」
「またそれ」
「だって」
「昔だったら」
「天城さんが」
「嫌がるかもって」
「呼ばなかったでしょ」
「……」
図星。
「今は?」
私は。
少し。
考える。
「陽向の気持ちは」
「聞く」
「うん」
「でも」
「私が」
「呼びたい人も」
「ちゃんと」
「言う」
神崎が。
笑った。
「いいね」
「ありがとうございます」
「じゃあ」
少し。
いたずらっぽい顔。
「当日」
「天城さんに」
「美月さんを」
「よろしく」
「って」
「言おうかな」
「やめてください」
「何で?」
「絶対」
「変な顔するから」
「見たい」
「神崎さん」
「はい」
「楽しんでますよね?」
「ちょっと」
「もう」
◇◇◇
結婚式。
二日前。
私は。
子どもたちと。
会った。
すると。
一番小さい子が。
大きな紙袋を。
抱えている。
「ママ!」
「何それ?」
「ないしょ!」
「見えてるけど」
「でもないしょ!」
ほかの子たちも。
何か。
隠している。
「……みんな」
「何かしてる?」
「してない」
「絶対してる」
星だけが。
妙に。
平然としている。
「ママ」
「何?」
「当日まで」
「聞かないで」
「……」
最近。
それ。
多い。
陽向と星が。
プロポーズを。
企んでいたときも。
そうだった。
「分かった」
私は。
笑う。
「待つ」
一人が。
少し。
驚く。
「聞かんの?」
「気になるよ」
「じゃあ聞けば?」
「でも」
私は。
みんなを見る。
「みんなが」
「当日にしたいなら」
「待つ」
星が。
少し。
嬉しそうに。
笑う。
「ママ」
「ほんと」
「待てるようになったね」
「それ」
「褒めてる?」
「褒めてる」
◇◇◇
少しして。
一人が。
私へ。
聞いた。
「ママ」
「何?」
「結婚式」
「緊張する?」
「する」
「なんで?」
「みんなの前で」
「陽向と」
「結婚しますって」
「言うんだよ?」
「もう結婚したんやろ?」
「そうだけど」
「じゃあ」
「同じやん」
「違うの」
一番小さい子が。
首を傾げる。
「ママ」
「何?」
「ドレス」
「おひめさま?」
「たぶん」
「みたい!」
「当日ね」
「ひなた」
「泣く?」
星が。
吹き出す。
「絶対泣く」
「僕もそう思う」
「俺も」
全員。
意見一致。
「そんなに?」
私は。
笑う。
星が。
真顔で。
言う。
「ママ」
「陽向くん」
「ドレス姿」
「まだ見てないんでしょ?」
「うん」
「じゃあ」
「絶対」
「泣く」
「そこまで?」
「泣く」
もう。
誰も。
疑っていない。
◇◇◇
その帰り。
前の夫が。
私を。
呼び止めた。
「美月」
「何?」
少し。
迷っている顔。
「式」
「ほんまに」
「行ってええんやな?」
「うん」
「今さら?」
「いや」
「近づいてきたら」
「やっぱり」
「変な感じして」
「……」
私は。
少し。
笑った。
「無理しなくていいよ」
「いや」
夫が。
首を振る。
「行く」
「うん」
「子どもらも」
「来てほしいって」
「言っとるし」
「うん」
「それに」
少し。
遠くを見る。
「俺も」
「見届けたほうが」
「いい気がする」
「……」
「お前が」
「ちゃんと」
「次に行くところ」
胸が。
静かに。
揺れた。
「もう」
「次には」
「行ってるけどね」
「分かっとる」
夫が。
苦笑する。
「でも」
「式って」
「なんか」
「区切りみたいな」
「感じするやろ」
「……うん」
「俺にとっても」
「そうかもしれん」
私は。
何も。
言わなかった。
ただ。
頷いた。
◇◇◇
すると。
夫が。
少し。
言いにくそうに。
続ける。
「あと」
「何?」
「もし」
「俺」
「当日」
「泣いても」
「……」
「笑うなよ」
前にも。
言っていた。
私は。
思わず。
笑いそうになる。
「もう」
「今」
「笑ってるやん」
「だって」
「言い方が」
「美月」
「ごめん」
「謝るな」
二人で。
笑った。
そして。
私は。
ふと。
思う。
この人と。
こんなふうに。
話せる日が。
来るなんて。
一度目の人生では。
想像していなかった。
夫婦では。
なくなった。
でも。
敵でもない。
子どもたちの。
父親と母親。
今は。
その距離が。
一番。
心地いい。
◇◇◇
結婚式。
前日。
私は。
仕事を。
早めに。
終えてもらった。
家へ。
帰る。
明日の。
荷物を。
確認する。
靴。
アクセサリー。
必要なもの。
婚約指輪。
そして。
結婚指輪。
箱を。
開ける。
二つの。
リング。
明日。
陽向と。
交換する。
胸が。
速くなる。
「……明日」
本当に。
結婚式。
なんだ。
すでに。
夫婦なのに。
不思議。
そのとき。
インターホン。
「……誰?」
開く。
陽向。
「え!?」
「来た」
「何で!?」
「会いたくて」
「明日会うじゃん」
「明日まで」
「長い」
「一晩だよ」
「長い」
相変わらず。
◇◇◇
でも。
今日は。
家へ。
入れなかった。
「ごめん」
私は。
玄関先で。
言う。
「今日は」
「帰って」
「ええ!?」
「明日」
「ドレス」
「初めて見るんでしょ」
「うん」
「だったら」
少し。
笑う。
「今日は」
「会わないで」
「気分作りたい」
陽向が。
少し。
口を。
尖らせる。
「……寂しい」
「一日」
「一日でも」
「寂しい」
「三十四歳」
「関係ない」
私は。
笑った。
「じゃあ」
「少しだけ」
玄関の。
外。
二人。
並ぶ。
夜。
静かな。
廊下。
「陽向」
「何?」
「明日」
「うん」
「私」
「一人で」
「歩くから」
「……うん」
バージンロード。
その話は。
もう。
してある。
「誰かに」
「連れてきてもらうんじゃなくて」
「うん」
「自分で」
「陽向のところに」
「行く」
陽向が。
じっと。
私を見る。
「待ってる」
「うん」
「絶対」
「待ってる」
「逃げないでね」
「逃げるわけない!」
「ふふっ」
◇◇◇
少し。
沈黙。
そして。
陽向が。
言った。
「美月」
「何?」
「俺」
「今」
「めちゃくちゃ」
「幸せ」
胸が。
温かくなる。
「まだ」
「式」
「明日だけど?」
「関係ない」
「うん」
「だって」
陽向が。
笑う。
「美月が」
「明日」
「俺のところまで」
「歩いてきてくれるんだろ」
「……うん」
「それ」
「考えただけで」
目が。
少し。
潤んでいる。
「待って」
私は。
笑う。
「今から」
「泣かないでよ」
「無理かも」
「本番」
「絶対泣くじゃん」
「みんなにも」
「言われた」
「誰に!?」
「子どもたち」
「俺の扱い!」
私は。
笑った。
◇◇◇
「ねえ」
今度は。
私が。
言う。
「陽向」
「ん?」
「一つ」
「聞いていい?」
「何?」
「明日」
「私が」
「歩いてくるとき」
「何を」
「考えると思う?」
陽向が。
少し。
考える。
「……たぶん」
「うん」
「最初」
「ドレス綺麗」
「って」
「思う」
「うん」
「次」
少し。
照れる。
「美月だ」
「って」
「……」
胸が。
鳴った。
「顔は」
「紗良だけど」
「うん」
「でも」
「歩いてくるの」
「美月だから」
涙が。
滲みそうになる。
「そっか」
「うん」
「じゃあ」
私は。
笑う。
「私も」
「歩きながら」
「陽向だって」
「思う」
「……」
「最推しじゃなくて?」
「……」
少し。
考えるふり。
「半分くらい」
「美月!」
「冗談」
陽向が。
膨れる。
「夫として」
「見てよ」
「見る」
「ちゃんと?」
「ちゃんと」
「約束」
「うん」
◇◇◇
帰る前。
陽向が。
一歩。
近づく。
「キス」
「……」
私は。
少し。
笑う。
「今日は」
「なし」
「え!?」
「明日」
「式で」
「するでしょ」
「……」
陽向の。
顔が。
赤くなる。
「それ」
「人前」
「急に」
「恥ずかしくなってきた」
「今さら?」
「ASTERいるんだぞ」
「子どもたちも」
「……」
二人。
同時に。
固まる。
「子どもたちの前で」
「キス……」
私も。
顔が。
熱くなる。
「……軽くで」
「うん」
「軽く」
「絶対」
「ASTERに」
「いじられる」
「それは」
「諦めて」
「美月冷たい」
二人で。
笑う。
そして。
今日は。
キスの代わりに。
陽向が。
私の手を。
握った。
「じゃあ」
「明日」
「うん」
「待ってる」
「うん」
「おやすみ」
「おやすみ」
手が。
離れる。
陽向が。
数歩。
歩く。
でも。
また。
振り返る。
「美月!」
「何?」
「愛してる!」
「声!」
「ごめん!」
慌てて。
周りを見る。
私は。
笑った。
そして。
少しだけ。
声を。
落として。
返す。
「私も」
陽向の。
顔が。
嬉しそうに。
なる。
◇◇◇
その夜。
私は。
なかなか。
眠れなかった。
ベッドの中。
目を。
閉じる。
一度目の。
結婚。
五人の。
子どもたち。
事故。
病院。
陽向の。
腕の中。
鏡に。
映った。
知らない顔。
紗良の。
記憶。
子どもたちに。
会いたくて。
泣いた日。
陽向と。
喧嘩した日。
「好き」
と。
気づいた日。
初めて。
キスをした日。
星に。
「ママ」
と。
呼ばれた日。
五人全員が。
もう一度。
私を。
ママと。
呼んでくれた日。
前の夫へ。
妻には。
戻れないと。
言った日。
陽向に。
プロポーズされた日。
そして。
明日。
全部。
繋がっている。
一つも。
消さなくていい。
苦しかった日も。
幸せだった日も。
全部。
私の人生。
「……紗良」
ふと。
名前を。
呼んだ。
もう。
以前のように。
姿は。
見えない。
声も。
聞こえない。
でも。
この身体に。
残っている。
記憶も。
想いも。
私の中に。
ある。
「明日」
私は。
小さく。
言う。
「結婚するよ」
返事は。
ない。
でも。
なぜか。
胸の奥が。
少し。
温かかった。
◇◇◇
そして。
結婚式当日。
まだ。
朝の光が。
柔らかい時間。
私は。
控室の。
鏡の前に。
座っていた。
髪を。
整えてもらい。
メイクを。
してもらい。
最後。
ウェディングドレスを。
身につける。
カーテンが。
開く。
鏡の中。
白い。
ドレス。
一ノ瀬紗良の。
顔。
でも。
もう。
迷わない。
私は。
鏡の中の。
自分を見る。
そして。
小さく。
笑った。
「……高瀬美月」
三十四歳で。
一度。
人生を。
終えた。
五人の。
子どもたちの。
母親。
女優。
そして。
天城陽向の。
妻。
「今日」
胸へ。
手を。
当てる。
「結婚式を」
少し。
笑う。
「します」
その瞬間。
控室の。
ドアが。
ノックされた。
「ママ?」
星の声。
「入っていい?」
「うん」
扉が。
開く。
星が。
入ってくる。
私を。
見た。
そして。
完全に。
止まった。
「……」
「星?」
「……ママ」
「何?」
星の。
目に。
一気に。
涙が。
溜まる。
「綺麗」
胸が。
いっぱいになる。
「ありがとう」
「やばい」
星が。
笑いながら。
涙を拭く。
「私」
「もう泣いてる」
「まだ」
「式始まってないよ」
「ママも」
「泣いてるじゃん」
「……ほんとだ」
二人で。
笑った。
◇◇◇
そして。
廊下の向こう。
会場には。
ASTERの。
四人。
事務所の。
人たち。
神崎悠人。
五人の。
子どもたち。
そして。
少し。
緊張した顔で。
子どもたちの隣に。
座る。
前の夫。
みんなが。
待っている。
その先には。
天城陽向。
私が。
自分で。
選んだ人。
「ママ」
星が。
私の手を。
握る。
「行ける?」
私は。
一度。
深呼吸した。
怖くない。
と言えば。
嘘になる。
でも。
もう。
怖いからって。
立ち止まらない。
「うん」
私は。
星の手を。
一度。
握り返す。
そして。
離した。
「行ってくる」
星が。
笑う。
「うん」
「行ってらっしゃい」
チャペルの。
扉の前。
私は。
一人で。
立つ。
誰かに。
連れていってもらうためじゃない。
誰かに。
渡してもらうためでもない。
私が。
自分で。
選んだ未来へ。
歩いていくため。
音楽が。
始まる。
そして。
ゆっくり。
扉が。
開いた。
光の。
向こう。
バージンロードの。
一番先に。
陽向が。
立っている。
私を。
見た瞬間。
その顔が。
崩れた。
「……」
遠くても。
分かる。
泣いてる。
私は。
思わず。
笑った。
やっぱり。
そして。
一歩。
バージンロードへ。
足を。
踏み出した。
明日ではなく。
いつかでもなく。
今。
私は。
自分の足で。
幸せのほうへ。
歩き始めた。
あと三日。
なのに。
陽向は。
明らかに。
落ち着きがなかった。
「美月」
「何?」
「忘れ物ない?」
「まだ三日前だけど」
「指輪は?」
「当日持っていく」
「婚姻届は?」
「もう入籍したでしょ」
「そうだった!」
私は。
思わず。
笑った。
そう。
私たちは。
すでに。
夫婦になっている。
あの日。
私が。
一度目の人生を終え。
二度目の人生を。
始めた日。
その日に。
二人で。
婚姻届を。
出した。
戸籍に。
書かれた名前は。
高瀬美月では。
なかった。
それでも。
届を出す直前。
陽向は。
私を見て。
ちゃんと。
言った。
『美月』
『今日から』
『俺の奥さんになってください』
私は。
笑って。
答えた。
『はい』
紙に。
どんな名前が。
書かれていても。
あの日。
陽向と。
夫婦になったのは。
私。
高瀬美月。
だから。
結婚式は。
法律のためじゃない。
大切な人たちの前で。
私たちが。
これからを。
一緒に生きると。
伝える日。
「……陽向」
「何?」
「もう」
「夫なんだよね」
「……」
陽向が。
固まる。
「何?」
「もう一回」
「言わない」
「美月!」
「ふふっ」
まだ。
夫。
妻。
という言葉に。
二人とも。
慣れていない。
◇◇◇
一方。
結婚式の。
裏では。
ASTERの。
四人が。
何かを。
企んでいた。
「これ」
「絶対泣くよな」
「陽向は泣く」
「美月さんも」
「たぶん泣く」
「てか」
「俺らが」
「先に泣きそう」
会議室。
テーブルの上。
大量の。
写真。
動画。
メッセージ。
陽向の。
アイドルとしての。
十年以上。
デビュー前。
初ライブ。
初めての。
大きな会場。
五人で。
泣いた日。
笑った日。
失敗した日。
そして。
最近の。
陽向。
そこへ。
星から。
提供された。
美月の。
昔の写真が。
少しだけ。
加わっていた。
もちろん。
子どもたちの。
顔や。
家族の。
個人的な情報は。
式の中だけ。
外には。
絶対に。
出さない。
その約束で。
「これ」
一人が。
一枚の写真を。
持ち上げる。
「美月さん」
「ASTERのライブグッズ」
「持ってる?」
星が。
笑う。
「はい」
「これ」
「ママです」
そこには。
まだ。
高瀬美月だった頃の。
美月。
ASTERの。
ライブグッズを。
手にして。
笑っている。
陽向の。
メンバーカラー。
ピンク。
「……」
四人が。
黙る。
「これ」
「陽向に見せたら」
「終わるな」
「確実に」
星が。
少し笑った。
「ママも」
「たぶん泣きます」
「じゃあ採用」
「早い」
◇◇◇
サプライズは。
映像。
だけでは。
なかった。
「歌」
一人が。
言う。
「やっぱ」
「やる?」
「やるでしょ」
「披露宴で」
「ASTER四人だけ?」
「いや」
「陽向も」
「最後」
「引っ張り込む」
「新郎を?」
「絶対」
「嫌がる」
「でも」
「歌う」
全員。
分かっている。
陽向は。
嫌だと言いながら。
最終的には。
絶対。
歌う。
「曲は?」
一人が。
候補を。
出す。
陽向と。
美月が。
昔から。
好きだった。
ASTERの。
バラード。
あの日。
プロポーズの。
カラオケで。
陽向が。
美月一人のために。
歌った曲。
「これ」
「いいじゃん」
「でも」
星が。
少し。
驚く。
「ママ」
「この曲」
「すごく好きです」
四人が。
にやっとする。
「じゃあ」
「決まり」
◇◇◇
そして。
もう一人。
披露宴の。
招待客で。
妙に。
楽しそうな人が。
いた。
神崎悠人。
「天城さん」
撮影の。
休憩中。
神崎が。
私へ。
聞いた。
「結婚式」
「緊張してる?」
「私に聞くんですか?」
「だって」
「天城さん」
「絶対」
「今頃」
「一人で」
「緊張してそう」
想像して。
笑ってしまう。
「してると思います」
「やっぱり」
神崎が。
コーヒーを。
飲む。
「でも」
「結婚式で」
「俺」
「ちゃんと」
「呼んでもらえるんだね」
「呼びましたよ」
「天城さん」
「嫌がらなかった?」
「ちょっと」
「やっぱり」
「でも」
私は。
笑う。
「私が」
「来てほしいって」
「言ったから」
「……」
神崎が。
少し。
目を細める。
「変わったね」
「またそれ」
「だって」
「昔だったら」
「天城さんが」
「嫌がるかもって」
「呼ばなかったでしょ」
「……」
図星。
「今は?」
私は。
少し。
考える。
「陽向の気持ちは」
「聞く」
「うん」
「でも」
「私が」
「呼びたい人も」
「ちゃんと」
「言う」
神崎が。
笑った。
「いいね」
「ありがとうございます」
「じゃあ」
少し。
いたずらっぽい顔。
「当日」
「天城さんに」
「美月さんを」
「よろしく」
「って」
「言おうかな」
「やめてください」
「何で?」
「絶対」
「変な顔するから」
「見たい」
「神崎さん」
「はい」
「楽しんでますよね?」
「ちょっと」
「もう」
◇◇◇
結婚式。
二日前。
私は。
子どもたちと。
会った。
すると。
一番小さい子が。
大きな紙袋を。
抱えている。
「ママ!」
「何それ?」
「ないしょ!」
「見えてるけど」
「でもないしょ!」
ほかの子たちも。
何か。
隠している。
「……みんな」
「何かしてる?」
「してない」
「絶対してる」
星だけが。
妙に。
平然としている。
「ママ」
「何?」
「当日まで」
「聞かないで」
「……」
最近。
それ。
多い。
陽向と星が。
プロポーズを。
企んでいたときも。
そうだった。
「分かった」
私は。
笑う。
「待つ」
一人が。
少し。
驚く。
「聞かんの?」
「気になるよ」
「じゃあ聞けば?」
「でも」
私は。
みんなを見る。
「みんなが」
「当日にしたいなら」
「待つ」
星が。
少し。
嬉しそうに。
笑う。
「ママ」
「ほんと」
「待てるようになったね」
「それ」
「褒めてる?」
「褒めてる」
◇◇◇
少しして。
一人が。
私へ。
聞いた。
「ママ」
「何?」
「結婚式」
「緊張する?」
「する」
「なんで?」
「みんなの前で」
「陽向と」
「結婚しますって」
「言うんだよ?」
「もう結婚したんやろ?」
「そうだけど」
「じゃあ」
「同じやん」
「違うの」
一番小さい子が。
首を傾げる。
「ママ」
「何?」
「ドレス」
「おひめさま?」
「たぶん」
「みたい!」
「当日ね」
「ひなた」
「泣く?」
星が。
吹き出す。
「絶対泣く」
「僕もそう思う」
「俺も」
全員。
意見一致。
「そんなに?」
私は。
笑う。
星が。
真顔で。
言う。
「ママ」
「陽向くん」
「ドレス姿」
「まだ見てないんでしょ?」
「うん」
「じゃあ」
「絶対」
「泣く」
「そこまで?」
「泣く」
もう。
誰も。
疑っていない。
◇◇◇
その帰り。
前の夫が。
私を。
呼び止めた。
「美月」
「何?」
少し。
迷っている顔。
「式」
「ほんまに」
「行ってええんやな?」
「うん」
「今さら?」
「いや」
「近づいてきたら」
「やっぱり」
「変な感じして」
「……」
私は。
少し。
笑った。
「無理しなくていいよ」
「いや」
夫が。
首を振る。
「行く」
「うん」
「子どもらも」
「来てほしいって」
「言っとるし」
「うん」
「それに」
少し。
遠くを見る。
「俺も」
「見届けたほうが」
「いい気がする」
「……」
「お前が」
「ちゃんと」
「次に行くところ」
胸が。
静かに。
揺れた。
「もう」
「次には」
「行ってるけどね」
「分かっとる」
夫が。
苦笑する。
「でも」
「式って」
「なんか」
「区切りみたいな」
「感じするやろ」
「……うん」
「俺にとっても」
「そうかもしれん」
私は。
何も。
言わなかった。
ただ。
頷いた。
◇◇◇
すると。
夫が。
少し。
言いにくそうに。
続ける。
「あと」
「何?」
「もし」
「俺」
「当日」
「泣いても」
「……」
「笑うなよ」
前にも。
言っていた。
私は。
思わず。
笑いそうになる。
「もう」
「今」
「笑ってるやん」
「だって」
「言い方が」
「美月」
「ごめん」
「謝るな」
二人で。
笑った。
そして。
私は。
ふと。
思う。
この人と。
こんなふうに。
話せる日が。
来るなんて。
一度目の人生では。
想像していなかった。
夫婦では。
なくなった。
でも。
敵でもない。
子どもたちの。
父親と母親。
今は。
その距離が。
一番。
心地いい。
◇◇◇
結婚式。
前日。
私は。
仕事を。
早めに。
終えてもらった。
家へ。
帰る。
明日の。
荷物を。
確認する。
靴。
アクセサリー。
必要なもの。
婚約指輪。
そして。
結婚指輪。
箱を。
開ける。
二つの。
リング。
明日。
陽向と。
交換する。
胸が。
速くなる。
「……明日」
本当に。
結婚式。
なんだ。
すでに。
夫婦なのに。
不思議。
そのとき。
インターホン。
「……誰?」
開く。
陽向。
「え!?」
「来た」
「何で!?」
「会いたくて」
「明日会うじゃん」
「明日まで」
「長い」
「一晩だよ」
「長い」
相変わらず。
◇◇◇
でも。
今日は。
家へ。
入れなかった。
「ごめん」
私は。
玄関先で。
言う。
「今日は」
「帰って」
「ええ!?」
「明日」
「ドレス」
「初めて見るんでしょ」
「うん」
「だったら」
少し。
笑う。
「今日は」
「会わないで」
「気分作りたい」
陽向が。
少し。
口を。
尖らせる。
「……寂しい」
「一日」
「一日でも」
「寂しい」
「三十四歳」
「関係ない」
私は。
笑った。
「じゃあ」
「少しだけ」
玄関の。
外。
二人。
並ぶ。
夜。
静かな。
廊下。
「陽向」
「何?」
「明日」
「うん」
「私」
「一人で」
「歩くから」
「……うん」
バージンロード。
その話は。
もう。
してある。
「誰かに」
「連れてきてもらうんじゃなくて」
「うん」
「自分で」
「陽向のところに」
「行く」
陽向が。
じっと。
私を見る。
「待ってる」
「うん」
「絶対」
「待ってる」
「逃げないでね」
「逃げるわけない!」
「ふふっ」
◇◇◇
少し。
沈黙。
そして。
陽向が。
言った。
「美月」
「何?」
「俺」
「今」
「めちゃくちゃ」
「幸せ」
胸が。
温かくなる。
「まだ」
「式」
「明日だけど?」
「関係ない」
「うん」
「だって」
陽向が。
笑う。
「美月が」
「明日」
「俺のところまで」
「歩いてきてくれるんだろ」
「……うん」
「それ」
「考えただけで」
目が。
少し。
潤んでいる。
「待って」
私は。
笑う。
「今から」
「泣かないでよ」
「無理かも」
「本番」
「絶対泣くじゃん」
「みんなにも」
「言われた」
「誰に!?」
「子どもたち」
「俺の扱い!」
私は。
笑った。
◇◇◇
「ねえ」
今度は。
私が。
言う。
「陽向」
「ん?」
「一つ」
「聞いていい?」
「何?」
「明日」
「私が」
「歩いてくるとき」
「何を」
「考えると思う?」
陽向が。
少し。
考える。
「……たぶん」
「うん」
「最初」
「ドレス綺麗」
「って」
「思う」
「うん」
「次」
少し。
照れる。
「美月だ」
「って」
「……」
胸が。
鳴った。
「顔は」
「紗良だけど」
「うん」
「でも」
「歩いてくるの」
「美月だから」
涙が。
滲みそうになる。
「そっか」
「うん」
「じゃあ」
私は。
笑う。
「私も」
「歩きながら」
「陽向だって」
「思う」
「……」
「最推しじゃなくて?」
「……」
少し。
考えるふり。
「半分くらい」
「美月!」
「冗談」
陽向が。
膨れる。
「夫として」
「見てよ」
「見る」
「ちゃんと?」
「ちゃんと」
「約束」
「うん」
◇◇◇
帰る前。
陽向が。
一歩。
近づく。
「キス」
「……」
私は。
少し。
笑う。
「今日は」
「なし」
「え!?」
「明日」
「式で」
「するでしょ」
「……」
陽向の。
顔が。
赤くなる。
「それ」
「人前」
「急に」
「恥ずかしくなってきた」
「今さら?」
「ASTERいるんだぞ」
「子どもたちも」
「……」
二人。
同時に。
固まる。
「子どもたちの前で」
「キス……」
私も。
顔が。
熱くなる。
「……軽くで」
「うん」
「軽く」
「絶対」
「ASTERに」
「いじられる」
「それは」
「諦めて」
「美月冷たい」
二人で。
笑う。
そして。
今日は。
キスの代わりに。
陽向が。
私の手を。
握った。
「じゃあ」
「明日」
「うん」
「待ってる」
「うん」
「おやすみ」
「おやすみ」
手が。
離れる。
陽向が。
数歩。
歩く。
でも。
また。
振り返る。
「美月!」
「何?」
「愛してる!」
「声!」
「ごめん!」
慌てて。
周りを見る。
私は。
笑った。
そして。
少しだけ。
声を。
落として。
返す。
「私も」
陽向の。
顔が。
嬉しそうに。
なる。
◇◇◇
その夜。
私は。
なかなか。
眠れなかった。
ベッドの中。
目を。
閉じる。
一度目の。
結婚。
五人の。
子どもたち。
事故。
病院。
陽向の。
腕の中。
鏡に。
映った。
知らない顔。
紗良の。
記憶。
子どもたちに。
会いたくて。
泣いた日。
陽向と。
喧嘩した日。
「好き」
と。
気づいた日。
初めて。
キスをした日。
星に。
「ママ」
と。
呼ばれた日。
五人全員が。
もう一度。
私を。
ママと。
呼んでくれた日。
前の夫へ。
妻には。
戻れないと。
言った日。
陽向に。
プロポーズされた日。
そして。
明日。
全部。
繋がっている。
一つも。
消さなくていい。
苦しかった日も。
幸せだった日も。
全部。
私の人生。
「……紗良」
ふと。
名前を。
呼んだ。
もう。
以前のように。
姿は。
見えない。
声も。
聞こえない。
でも。
この身体に。
残っている。
記憶も。
想いも。
私の中に。
ある。
「明日」
私は。
小さく。
言う。
「結婚するよ」
返事は。
ない。
でも。
なぜか。
胸の奥が。
少し。
温かかった。
◇◇◇
そして。
結婚式当日。
まだ。
朝の光が。
柔らかい時間。
私は。
控室の。
鏡の前に。
座っていた。
髪を。
整えてもらい。
メイクを。
してもらい。
最後。
ウェディングドレスを。
身につける。
カーテンが。
開く。
鏡の中。
白い。
ドレス。
一ノ瀬紗良の。
顔。
でも。
もう。
迷わない。
私は。
鏡の中の。
自分を見る。
そして。
小さく。
笑った。
「……高瀬美月」
三十四歳で。
一度。
人生を。
終えた。
五人の。
子どもたちの。
母親。
女優。
そして。
天城陽向の。
妻。
「今日」
胸へ。
手を。
当てる。
「結婚式を」
少し。
笑う。
「します」
その瞬間。
控室の。
ドアが。
ノックされた。
「ママ?」
星の声。
「入っていい?」
「うん」
扉が。
開く。
星が。
入ってくる。
私を。
見た。
そして。
完全に。
止まった。
「……」
「星?」
「……ママ」
「何?」
星の。
目に。
一気に。
涙が。
溜まる。
「綺麗」
胸が。
いっぱいになる。
「ありがとう」
「やばい」
星が。
笑いながら。
涙を拭く。
「私」
「もう泣いてる」
「まだ」
「式始まってないよ」
「ママも」
「泣いてるじゃん」
「……ほんとだ」
二人で。
笑った。
◇◇◇
そして。
廊下の向こう。
会場には。
ASTERの。
四人。
事務所の。
人たち。
神崎悠人。
五人の。
子どもたち。
そして。
少し。
緊張した顔で。
子どもたちの隣に。
座る。
前の夫。
みんなが。
待っている。
その先には。
天城陽向。
私が。
自分で。
選んだ人。
「ママ」
星が。
私の手を。
握る。
「行ける?」
私は。
一度。
深呼吸した。
怖くない。
と言えば。
嘘になる。
でも。
もう。
怖いからって。
立ち止まらない。
「うん」
私は。
星の手を。
一度。
握り返す。
そして。
離した。
「行ってくる」
星が。
笑う。
「うん」
「行ってらっしゃい」
チャペルの。
扉の前。
私は。
一人で。
立つ。
誰かに。
連れていってもらうためじゃない。
誰かに。
渡してもらうためでもない。
私が。
自分で。
選んだ未来へ。
歩いていくため。
音楽が。
始まる。
そして。
ゆっくり。
扉が。
開いた。
光の。
向こう。
バージンロードの。
一番先に。
陽向が。
立っている。
私を。
見た瞬間。
その顔が。
崩れた。
「……」
遠くても。
分かる。
泣いてる。
私は。
思わず。
笑った。
やっぱり。
そして。
一歩。
バージンロードへ。
足を。
踏み出した。
明日ではなく。
いつかでもなく。
今。
私は。
自分の足で。
幸せのほうへ。
歩き始めた。