儚く散った初恋は十二年の時を経て芽吹く 〜犬猿の仲だった御曹司と再会したら溺愛されました〜

エピローグ

「母さんが変なこと言ってすみません。結月は気にしなくていいから。忘れてください」

 仕事が終わると、拓真が改めて迎えにきていた。申し訳なさそうな表情の彼を一瞥すると、結月はその表情を見ながら、クスリと笑った。

「拓真くんがおばあちゃんのカフェを継ぎたいっていうのも忘れていいの?」
「それは……俺の勝手な希望だから忘れていいです。だってあんなことをしておいて、結月の心をほしいと願うのは虫がよすぎる。こうやって普通に離してもらえるだけで有難いのに……。叶わない夢を見るほど、愚かじゃないから安心してください」

 自嘲気味に笑う拓真に胸が苦しくなって、結月は胸元をぎゅっと掴んだ。

「そんなことは分からないわ」
「え?」
「未来のことは誰にも分からないものよ。だって私……昔の優しいあなたに恋をしていた時期があるのよ。初恋の相手はあなただわ。だけど、あんなことがあって……拓真くんのこと、顔も見たくないくらい嫌いになって、でも今は普通に話せてる。もう嫌いではないわ。ううん、むしろ好意的に思ってる」

 自分の気持ちが今後どう変わるかなんて本人ですら分からないのだから、叶わないと決めつけるのはよくない。
 でも彼の気持ちを受け入れられるか分からないのに、こんなことを言うのは残酷だろうか。

 様子を窺うようにちらりと拓真を見ると、彼は泣きそうな顔をしていた。そして何度もごめんと謝りながら、結月を嫌がらせをすることになった経緯を話しはじめた。

「神社でも少し話したけど、昔も、今も、ずっと結月だけが好きなんです。なのに、友人に揶揄われたことで、結月を突き放してしまった。そのうえ、結月への接し方がわからなくなり、焦って……さらに結月に嫌われるようなことをしました」
「拓真くん……」
「もう二度と結月の気持ちを踏み躙らない男になります。お願いします、もう一度チャンスをください」

 とても真剣な顔で結月への想いを話す拓真に、結月は胸にちくりとした痛みを感じた。彼の言葉が偽りではないことは、再会してからの彼の行動が示している。

 結月は神社で再会したときのように、拓真を突っぱねることができなかった。

「いいわ。チャンスをあげる」
「本当ですか?」
「ええ。私たち、やりなおしましょう」

 自分が思っているより声はか細く震えていた。けれど、拓真はもっと震えていた。

 嬉し涙に滲む彼の瞳を見ていると、今のような日々が続くのは悪くないと純粋に思える。
 結月はかつての恋心が再び芽吹くのを感じた。
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