儚く散った初恋は十二年の時を経て芽吹く 〜犬猿の仲だった御曹司と再会したら溺愛されました〜
「私てっきり、結月ちゃんは拓真のことが嫌いだと思っていたのよ。それなら仕方ないと諦めていたのだけど、嫌いじゃないならあなたのおじいさまの遺志をくんであげてもいいじゃない?」

(う……)

 泣き祖父の思いを大切にしろと言われれば、結月は反論できなかった。
 なんと返すべきか悩んでいると、文子がさらに続ける。

「あなたの仕事は人を笑顔にするとても立派なお仕事だわ。けれど、私としてはあなたには一日も早く碓氷文具に入って仕事を覚えてほしいのよ。拓真の秘書なんてどうかしら? 語学力もいかせるし、ちょうどいいんじゃない? 結月ちゃんは賢いから、学べばすぐ立派な秘書になれるわ。だから今の仕事はさっさと辞めちゃいなさい」

 文子の言葉にギョッとする。
 驚きのあまり結月が固まっていると、拓真が「母さんっ!」と声を荒らげた。

「ここで働くのは結月の長年の夢だったんだ。何も知らないくせに、取り上げようとしないでくれ。大体、今どき同族経営なんて流行らないよ。結婚するなら、俺が結月のところに婿に入って、透子さんのカフェを継ぎたい」
「は? カフェを継ぐ? 馬鹿なことを言うものじゃないわ。第一、経営は流行るとか流行らないとかの問題ではないのよ!」

 喧嘩を始める二人に、結月は軽くパニックだ。

 結月としても、拓真の――婿に入ってカフェを継ぎたい発言には「は?」と思った。
 だが、彼の本当の気持ちに嫌悪感はなかった。

 今日は優しくて素敵なお客様に出会ったと思ったら、酔った水本に絡まれるし、拓真の母親とも邂逅を果たす。
 今日は少し珍妙な日だ。
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