『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』
鷹宮グループ副社長。

肩書きだけを聞けば、朝から颯爽と会社へ向かう姿を想像しそうなものだけれど、現実は会長である父親には孫の送迎を優先され、姪三人に服を引っ張られ、一歳の甥にまで手を伸ばされている。

「慎ちゃん」

「何?」

「お父様、梨杏を学校へ送ったら戻ってくると思うよ」

「“思う”じゃ困るんだけど」

「電話したら?」

「出ない」

「運転中だからじゃない?」

「……本当に自由だな、うちの会長」

心の底から疲れたような声だった。

その横で、遼河さんが玲音を抱いたまま時計を見る。

「俺もそろそろ行く」

「うん」

遼河さんは玲音を私へ渡すと、ジャケットを手に取った。

「今日は遅くならない」

「分かった」

「何かあったら連絡しろ」

「はいはい」

「玲音が熱を出したら――」

「分かったから」

「三つ子が――」

「遼河さん」

「何だ」

私は半分呆れながら笑った。

「会社行ってください、藤和CEO」

慎ちゃんが吹き出す。

「CEO、追い出されてる」

遼河さんの目が、すっと細くなった。

「鷹宮副社長」

「何でしょう」

「お前も仕事へ行け」

「会長待ちなんですけど」

「置いていけ」

「それやったら後で俺が怒られるんですよ!」

「知らん」

「姉さん、この人酷くない?」

「二人とも朝からうるさい」

家ではこんな調子でも、会社へ行けば一人はKSサイエンスのCEO、もう一人は鷹宮グループの副社長として、ちゃんと仕事の顔になるらしい。

……たぶん。

そのうえ肝心の鷹宮グループ会長は、孫の送迎中。

改めて考えると。

今日もなかなか酷い朝だ。

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