『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』
とうとう声が大きくなる。

遼河さんの口元が。

今度こそ、はっきりと笑った。

「今、笑いましたよね!」

「ああ」

「認めるんですか!」

「今回はな」

腹立つ。

本当に腹が立つ。

それなのに。

十三年間。

忘れようとしても忘れられなかった人が。

目の前で笑っている。

そのことを。

少しだけ嬉しいと思ってしまった自分の方が、もっと腹立たしかった。

私は大きく息を吐き、渡された次の資料を受け取る。

「それで、次は何をすればいいんですか?」

遼河さんがこちらを見る。

その目が、ほんの少し柔らかくなった。

「明日の予定を全部組み直せ」

「……全部?」

「ああ」

端末を見る。

朝八時から夜まで。

今日と同じくらい。

びっしり。

「藤和CEO」

「何だ」

「一つ確認してもよろしいでしょうか」

「言え」

私は満面の営業用スマイルを浮かべた。

「秘書を何だと思っていらっしゃいます?」

数秒。

遼河さんが黙る。

そして。

何の迷いもなく答えた。

「俺を一番効率よく働かせる人間」

……そう来たか。

一瞬。

言い返す言葉が見つからなかった。

「だから、お前にした」

さらりと続いた言葉に。

今度は別の意味で、息が止まる。

けれど。

遼河さんはもう資料へ視線を戻していた。

まるで。

特別なことなど、何も言っていないように。

ずるい。

そういうところ。

本当に。

ずるい。

私は端末へ視線を落とした。

「……では、組み直します」

「ああ。頼む」

専属秘書としての初日。

仕事内容は。

契約。

交渉。

スケジュール。

昼食。

コーヒー。

ネクタイ。

手土産。

その他、諸々。

思っていたより遥かに幅広い。

というより。

「……やっぱり雑用も入ってるじゃない」

「綾乃」

「今度は聞こえるように言いました」

遼河さんが小さく笑う。

そして私は。

その笑顔を見なかったことにして。

今日何度目か分からないため息をつきながら、明日の予定表を開いた。
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