『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』
男性社員の返事が、先ほどよりはっきりしていた。

会議はそのまま続行された。

終わったのは、予定より十分遅れ。

廊下へ出ると。

後ろから小さな声がした。

「鷹宮さん」

振り返る。

先ほどの若い社員だった。

「はい」

「さっきは……お見苦しいところを」

「そんなことありません」

「藤和CEO、怖かったでしょう」

少し困ったように笑う。

返答に迷う。

「……かなり」

正直に答えると。

男性社員が吹き出した。

「ですよね」

「でも」

私は会議室の扉を見る。

「一人の責任にはしませんでしたね」

男性社員の表情が変わった。

「はい」

少しだけ誇らしそうに。

「藤和CEO、ああいう人なんです」

「ああいう?」

「ミスは徹底的に追います。でも、誰が悪いかより、なぜ起きたかを先に見るんです」

「……」

「外では絶対に社員を責めませんし」

そう言って。

少し笑う。

「客先で何かあったら、自分が前に出ます。あとで社内では死ぬほど怒られますけど」

最後が余計。

思わず笑ってしまった。

「では、失礼します」

「はい。再検証、頑張ってください」

「ありがとうございます」

走るように去っていく背中を見送る。

「何を話していた」

また。

背後。

「……藤和CEO」

「何だ」

「人の後ろへ気配なく立つの、やめていただけます?」

「普通に歩いてきた」

嘘。

絶対嘘。

「先ほどの社員と少しお話を」

「何を」

「藤和CEOは怖いですね、と」

遼河さんの眉が動く。

「お前が言ったのか?」

「本人も同意されていました」

「……そうか」

気にしないんだ。

「でも」

口から出ていた。

「少し意外でした」

遼河さんが私を見る。

「何が」

「最後まで、あの方一人の責任にはしなかったので」

一瞬。

遼河さんの目が細くなった。

「当然だろう」

「当然?」

「あの資料が出るまでに、担当者、責任者、部長と何人も関わっている」

淡々とした声。

「組織で起きたミスを、一番下の人間だけに被せて何になる」

何でもないことのように言う。

「原因を潰さなければ、また起きる」

「……そうですね」

「それに」

遼河さんが歩き出す。

「最終的な責任は俺にある」

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