『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』
何なの。
朝から調子が狂う。
「鷹宮さん」
横を見る。
一ノ瀬さんが、いつの間にか秘書課の入り口に立っていた。
「おはようございます」
「おはようございます」
満面の笑顔。
嫌な予感しかしない。
「藤和CEOと普通に会話できる人、久しぶりに見ました」
「普通でしょうか」
「かなり」
「そうですか?」
「僕らなんて、あんなに言い返したら三往復目くらいで諦めます」
「一ノ瀬」
城之内さんの声が飛ぶ。
「朝から鷹宮さんへ余計な情報を吹き込まないでください」
「だって本当でしょう?」
「仕事へ戻ってください」
「はいはい」
一ノ瀬さんは笑いながら去っていった。
本当に。
この会社の人たちは、遼河さんをどう思っているのだろう。
怖がっているようにも見える。
けれど。
嫌っているようには見えない。
その答えを知ったのは、午前十時を少し回った頃だった。
開発部門レビュー。
新しく立ち上げるAIサービスについて、開発チームから進捗報告を受ける会議だった。
私は遼河さんの右後方に座り、議事録を取っていた。
会議は順調に進んでいた。
途中までは。
「では、実証試験の結果を」
スクリーンへデータが映し出される。
その瞬間。
遼河さんの表情が変わった。
「止めろ」
低い声。
室内の空気が、一瞬で張り詰める。
説明をしていた若い男性社員の手が止まった。
「……はい」
「三ページ前へ戻せ」
画面が戻る。
遼河さんが資料を見つめる。
「この数値と、今出した結果が一致していない」
室内が静まり返った。
男性社員の顔から血の気が引いていく。
「申し訳ありません。確認します」
「今確認するな」
冷たい声。
思わず背筋が伸びた。
これが。
社内で言われている『冷徹なCEO』なのかもしれない。
遼河さんは資料へ視線を向けたまま続ける。
「昨日までに確認しておくべき内容だ」
「……申し訳ありません」
「謝罪ではなく原因を言え」
男性社員が唇を噛む。
「検証用データの一部を最新版へ差し替える際に……旧データが混在した可能性があります」
「可能性?」
さらに声が低くなる。
「事実を確認してから報告しろ。推測はいらない」
「はい」
容赦がない。
会議室の空気が凍りつく。
私は端末へ視線を落としながら。
少しだけ胸がざわついた。
厳しい。
確かに厳しい。
けれど――
「今日、この資料は社外へ出たか」
遼河さんが尋ねた。
「いいえ。社内レビューのみです」
「顧客へ提示したデータは?」
「そちらは前回確定版です。今回の資料は使用していません」
「ならいい」
遼河さんは椅子へ背を預けた。
「今日の十七時までに原因を特定。データを再検証し、真崎と開発責任者のダブルチェックを受けろ」
「はい」
「一人で抱えるな」
男性社員が顔を上げた。
「え……」
「時間がないからと、自分だけで修正するなと言っている。チームを使え」
「……はい」
「責任者は?」
開発部長が立ち上がる。
「私です」
「最終確認を部下任せにした理由は」
「申し訳ありません。別案件の対応が重なり――」
「それは理由にならない」
きっぱり。
「業務量が多すぎたなら、俺か総務へ人員調整を要求すべきだった。現場が無理をして数字を誤れば、最終的に顧客へ迷惑がかかる」
「はい」
「今回のミスはチームの問題だ。担当者一人の責任にするな」
私は。
思わず顔を上げた。
先ほど叱られていた若い社員も、驚いたように遼河さんを見ている。
「外部へ出る前に見つかった。なら、ここで直せばいい」
声は厳しいまま。
けれど。
さっきまでとは、少し違った。
「同じことを二度繰り返すな。それだけだ」
「……はい!」
朝から調子が狂う。
「鷹宮さん」
横を見る。
一ノ瀬さんが、いつの間にか秘書課の入り口に立っていた。
「おはようございます」
「おはようございます」
満面の笑顔。
嫌な予感しかしない。
「藤和CEOと普通に会話できる人、久しぶりに見ました」
「普通でしょうか」
「かなり」
「そうですか?」
「僕らなんて、あんなに言い返したら三往復目くらいで諦めます」
「一ノ瀬」
城之内さんの声が飛ぶ。
「朝から鷹宮さんへ余計な情報を吹き込まないでください」
「だって本当でしょう?」
「仕事へ戻ってください」
「はいはい」
一ノ瀬さんは笑いながら去っていった。
本当に。
この会社の人たちは、遼河さんをどう思っているのだろう。
怖がっているようにも見える。
けれど。
嫌っているようには見えない。
その答えを知ったのは、午前十時を少し回った頃だった。
開発部門レビュー。
新しく立ち上げるAIサービスについて、開発チームから進捗報告を受ける会議だった。
私は遼河さんの右後方に座り、議事録を取っていた。
会議は順調に進んでいた。
途中までは。
「では、実証試験の結果を」
スクリーンへデータが映し出される。
その瞬間。
遼河さんの表情が変わった。
「止めろ」
低い声。
室内の空気が、一瞬で張り詰める。
説明をしていた若い男性社員の手が止まった。
「……はい」
「三ページ前へ戻せ」
画面が戻る。
遼河さんが資料を見つめる。
「この数値と、今出した結果が一致していない」
室内が静まり返った。
男性社員の顔から血の気が引いていく。
「申し訳ありません。確認します」
「今確認するな」
冷たい声。
思わず背筋が伸びた。
これが。
社内で言われている『冷徹なCEO』なのかもしれない。
遼河さんは資料へ視線を向けたまま続ける。
「昨日までに確認しておくべき内容だ」
「……申し訳ありません」
「謝罪ではなく原因を言え」
男性社員が唇を噛む。
「検証用データの一部を最新版へ差し替える際に……旧データが混在した可能性があります」
「可能性?」
さらに声が低くなる。
「事実を確認してから報告しろ。推測はいらない」
「はい」
容赦がない。
会議室の空気が凍りつく。
私は端末へ視線を落としながら。
少しだけ胸がざわついた。
厳しい。
確かに厳しい。
けれど――
「今日、この資料は社外へ出たか」
遼河さんが尋ねた。
「いいえ。社内レビューのみです」
「顧客へ提示したデータは?」
「そちらは前回確定版です。今回の資料は使用していません」
「ならいい」
遼河さんは椅子へ背を預けた。
「今日の十七時までに原因を特定。データを再検証し、真崎と開発責任者のダブルチェックを受けろ」
「はい」
「一人で抱えるな」
男性社員が顔を上げた。
「え……」
「時間がないからと、自分だけで修正するなと言っている。チームを使え」
「……はい」
「責任者は?」
開発部長が立ち上がる。
「私です」
「最終確認を部下任せにした理由は」
「申し訳ありません。別案件の対応が重なり――」
「それは理由にならない」
きっぱり。
「業務量が多すぎたなら、俺か総務へ人員調整を要求すべきだった。現場が無理をして数字を誤れば、最終的に顧客へ迷惑がかかる」
「はい」
「今回のミスはチームの問題だ。担当者一人の責任にするな」
私は。
思わず顔を上げた。
先ほど叱られていた若い社員も、驚いたように遼河さんを見ている。
「外部へ出る前に見つかった。なら、ここで直せばいい」
声は厳しいまま。
けれど。
さっきまでとは、少し違った。
「同じことを二度繰り返すな。それだけだ」
「……はい!」