『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』
扉が閉まる直前。

振り返る。

遼河さんは、すでに私のデスクへ背を向けていた。

昔。

私が知っていた遼河さんは。

困っていると。

何も言わずに手を貸してくれる人だった。

転びそうになれば腕を掴んで。

人混みでは、いつも前を歩いて。

私が遅れれば、必ず振り返って待っていた。

でも。

今の遼河さんは。

もっと強引で。

もっと容赦がなくて。

何を考えているのか分からなくて。

それでも。

根っこのところは。

あまり変わっていないのかもしれない。

昼食を終え。

CEOフロアへ戻る。

途中。

ガラス越しに、遼河さんの姿が見えた。

社員から報告を受けながら。

厳しい顔で資料を確認している。

あれだけ見れば。

確かに。

冷徹なCEO。

近寄りがたい。

怖い。

そう見える。

でも。

私は今日。

その少し向こう側を見てしまった。

厳しく叱っても。

一人へ責任を押しつけないこと。

部下の失敗を。

最後には自分の責任だと言えること。

仕事をした人間を。

きちんと見ていること。

そして。

昼食を忘れた秘書を。

わざわざ追い出してまで休ませること。

「……全然、冷徹じゃないじゃない」

小さく呟く。

すると。

ガラスの向こうにいた遼河さんが。

ゆっくりとこちらを見た。

目が合った。

まずい。

聞こえる距離ではない。

絶対に聞こえていない。

……はず。

遼河さんが、わずかに眉を上げる。

私は何事もなかったように、にこりと笑った。

そのまま自分のデスクへ向かう。

心臓が。

少しだけ速い。

十三年間。

私は。

遼河さんのことを忘れようとしてきた。

蘭の許嫁になる人だから。

私が好きでいてはいけない人だから。

そう思って。

知らないふりをしてきた。

でも。

その理由は、もうない。

だからといって。

十三年前の気持ちを、今すぐどうにかするつもりもない。

ないけれど。

知らなかった十三年間の遼河さんを。

少しだけ。

知ってみたい。

そんなことを思い始めている自分に気づいて。

私は端末を開きながら、そっと息を吐いた。

「……まずいなぁ」

今度こそ。

誰にも聞こえない声で呟いた。
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