『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』
その日の午後。

「鷹宮さん、次の会議資料ですが」

城之内さんに声をかけられ、私はデスクから顔を上げた。

「はい」

差し出された資料へ手を伸ばした、その時だった。

デスクの端に置いていた私用の携帯が震えた。

短い振動。

ただ、それだけ。

普段なら、それほど気にすることもなかったと思う。

けれど。

画面に表示された名前を見た瞬間。

伸ばしていた手が止まった。

志水さん。

胸の奥に、ざらりとした感覚が広がる。

仕事中に、志水さんが私用の携帯へ直接電話をしてくることは、ほとんどない。

急ぎでなければ、たいていメッセージ。

それも、勤務時間を避けてくれる人だった。

だから。

着信画面を見ただけで。

何かが起きた。

そう分かってしまった。

「すみません。少し外します」

「はい。どうぞ」

資料を置き、携帯を握ったまま廊下へ出た。

歩きながら、なぜか心臓が速くなる。

まだ何も聞いていない。

何も起きたと決まったわけではない。

そう自分へ言い聞かせながら。

通話ボタンを押した。

「もしもし、志水さん?」

『綾乃お嬢様』

その声を聞いた瞬間。

足が止まった。

いつも。

何があっても落ち着いている人なのに。

その声には、わずかな掠れが混じっていた。

「……どうしたの?」

電話の向こうで、息を整える気配がする。

ほんの数秒。

なのに。

その沈黙が、異様に長く感じられた。

『旦那様が――お倒れになりました』

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