『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』
言葉を失った。

「……遼河さん?」

『はい』

どうして。

そこで。

遼河さんの名前が出るの。

胸の奥に。

また別のざわめきが広がった。

お父様。

志水さん。

遼河さん。

私の知らないところで。

三人の間には。

何があるの?

問いただしたかった。

でも。

今は。

それより先に。

「……分かった」

短く答えた。

「すぐ行く」

通話を切った。

携帯を握ったまま。

私はしばらく、その場から動けなかった。

お父様が倒れた。

病院にいる。

一年前には、もう病気だった。

それを。

私は知らなかった。

早紀子さんも。

蘭も。

知らない。

長期出張。

そんな嘘まで用意して。

すべてを隠している。

そして。

遼河さんは。

きっと。

何かを知っている。

「……何なのよ」

小さく漏れた声が。

思っていた以上に震えていた。

「どうして……また」

六年近く前。

突然。

カリフォルニアへ行けと言われた。

何も聞くな。

いずれ分かる。

我慢してくれ。

一年前。

日本へ戻った時も。

早紀子さんたちには知られていない。

今はまだ。

いずれ分かる。

ずっと。

ずっと。

そればかりだった。

「いずれって……いつなのよ」

声が掠れた。

「いつになったら……私にも話してくれるのよ」

「綾乃」

名前を呼ばれた。

顔を上げる。

廊下の先に。

遼河さんが立っていた。

いつからそこにいたのか分からない。

でも。

私の顔を見た瞬間。

彼の表情が変わった。

一年前なら。

こんな時でも。

何でもない顔をしようとしたかもしれない。

大丈夫です。

そう言って。

自分一人で何とかしようとしたと思う。

でも。

この一年で。

私は遼河さんが。

強引で。

しつこくて。

人の都合を無視するほど過保護で。

それでも。

本当に困った時には。

絶対に背中を向けない人なのだと知ってしまった。

だから。

その姿を見た途端。

張っていた糸が。

少しだけ緩んだ。

「どうした」

遼河さんが近づいてくる。

「顔色が悪い」

「……お父様が」

言葉にしようとして。

喉が詰まった。

口にしたら。

本当に。

何かが決定してしまいそうで。

怖かった。

「宏輝さんが?」

遼河さんの目が変わる。

「倒れたって」

やっと。

声になった。

「今、大学病院にいるって……意識は戻ってるみたいだけど」

言葉にした瞬間。

現実が。

一気に胸へ押し寄せた。

目の奥が熱くなる。

泣きたくない。

まだ。

何も決まったわけじゃない。

なのに。

声だけが。

どうしても震えた。

「病院は?」

聞かれ。

名前を告げる。

遼河さんは迷わなかった。

「行くぞ」

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