『十五年越しの願いは、歪んだ家族に砕かれて――身ごもり秘書は幼馴染CEOの重すぎる執着愛から逃げられない』
その言葉を聞いた瞬間。

私は息を止めた。

「……長期出張?」

聞いている。

少し前に。

志水さんから、

『旦那様はしばらく長期出張へ出られます』

そう報告を受けていた。

行き先は。

確か――。

「海外案件……って」

喉が震えた。

「言ってたよね」

『申し訳ございません』

それだけ。

それだけで。

全部分かった。

「出張じゃ……なかったの?」

返事はなかった。

でも。

もう必要なかった。

「志水さん」

携帯を握る手に、力が入る。

「お父様、いつから?」

『綾乃お嬢様』

「いつから悪かったの?」

聞きたくない。

それでも。

聞かずにはいられない。

「一年前、羽田で会った時には……もう?」

また。

沈黙。

胸が苦しくなる。

「だから痩せてたの?」

『……』

「だから、あの時何も聞くなって……」

声が掠れた。

「そういうことだったの?」

『申し訳ございません』

二度目の謝罪。

その言葉が。

肯定だった。

胸の奥へ。

冷たいものが落ちていく。

悲しい。

怖い。

腹が立つ。

どうして言ってくれなかったの。

何で。

また。

何も教えてくれなかったの。

次から次へと感情が浮かんで。

どれを掴めばいいのか、自分でも分からない。

でも。

その奥に。

もっと大きなものがあった。

――怖い。

お父様を失うかもしれない。

そう思った瞬間。

怒りも。

疑問も。

全部。

どうでもよくなりそうだった。

「……病院は?」

やっと。

それだけ聞いた。

志水さんから病院名と、入るべき入口を教えられる。

「今から行く」

『綾乃お嬢様』

「何?」

『お一人では、いらっしゃらないでください』

眉を寄せた。

「どうして?」

一拍。

『可能でございましたら、藤和CEOとご一緒に』

今度こそ。

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