【完結済】すべて失った廃妃のはずが、隣国で幸せになりました ~ 追放先で加護の力が復活し、新王妃として大歓迎されています ~
2.
社交界の人々はいつも、私とロジーナを興味津々の眼差しで見ていた。
同じ年に生まれた、二人の加護持ち令嬢。それも、ともに変革の力という、稀有な資質の持ち主。
二歳年上の王太子であるディオネル様のもとに、一体どちらの令嬢が嫁ぐことになるのか。皆の関心はそこにあったのだろう。幼い頃から母とともに参加する茶会では、いつも私とロジーナのことが話題に上っていた。
真っ直ぐな栗色の髪に、少し上がった漆黒の目を持つ私。生真面目なこの性格は表情に表れ、私は常に唇を引き結び、真顔を保って前を向いていた。
私とは対照的に、グリダ公爵家のロジーナは、それはそれは愛らしい容姿をしていた。
ふわふわと波打つピンクブロンドに、真ん丸な琥珀色の目。滑らかで真っ白な肌。口角の上がった桃色の唇は、常に微笑んでいるように見えた。そんな少女が、レースやフリルをふんだんにあしらったドレス姿で小首を傾げてみたり、無邪気な声で笑ったりすると、茶会に参加している大人たちは皆感嘆のため息を漏らした。
ロジーナはまるで、愛されるために生まれてきたような少女だった。
「ロジーナ嬢は本当に華やかですわ。まだたった四歳ですのに、快活で社交性もあって」
「ええ。将来が楽しみですわね。先日の王妃陛下主催のお茶会で、ディオネル王太子殿下と初めてお顔合わせをなさったのでしょう? 王太子殿下もロジーナ嬢を大層気に入ったご様子だったとか……」
茶会の席ではいつも、ご婦人たちがグリダ公爵夫人に向かい、ロジーナを褒めたたえる言葉の数々を並べていた。
グリダ公爵夫人はそれらの賛辞を聞きながら優雅に微笑み、謙虚な笑みを浮かべている。幼い私は、大人たちのそんな言動を注意深く観察し、それぞれの関係性や家格の強弱を自然と学んでいた。
ロジーナをひとしきり褒め終わると、今度は皆が私に視線を向ける。そして「そうだ、念のためこちらにもしっぽを振っておかなくては」とばかりに母に視線を移すと、社交用の笑みを浮かべ口々に言った。
「ベルロワ侯爵家のアリスティーヌ嬢も、とても素晴らしいですわ。ご覧になって。ずっと姿勢を正して座っていらっしゃるわ」
「ええ。幼いのに、本当に聡明で礼儀正しくあられますこと」
「ベルロワ侯爵家の教育水準の高さが窺えますわ。きっと立派にお育ちになりますわね」
容姿の美しさや愛嬌、可愛らしさを褒められるロジーナと、礼儀正しさや真面目さを称えられる私。
見た目も雰囲気もまるで共通点のない二人だったけれど、私たちはずっと、仲のいい友人同士として成長していった。ともに稀有な加護の力を持った令嬢として、そしてこのエヴァンシア王国の王太子であるディオネル殿下の婚約者候補として、顔を合わせる機会はとても多かったのだ。
やがて、ディオネル殿下も参加される王妃陛下の茶会に、私とロジーナが互いの母親とともに招かれる機会も増えていった。
大人たちが話している間、ディオネル殿下と三人で王宮の庭園を散歩したり、お喋りをしたり。勉強の合間の息抜きとして楽しい時間を過ごしたけれど、六歳の頃には、私はすでに気付いていた。
ディオネル殿下の視線が、常にロジーナにだけ向けられていることに。
艶やかな銀髪に、翡翠色の美しい目を持つディオネル殿下。彼とロジーナが二人で見つめ合いながら楽しそうに笑っている姿は、周囲の大人たちが感心するほど絵になっていた。誰が見ても、完璧にお似合いの二人だった。
その事実から目を逸らし、私はベルロワ侯爵家の娘として、なすべきことに勤しんだ。両親の望みは、私がディオネル殿下の妃となること。そしてそれは、およそ八万人のベルロワ侯爵領民の生活にも大きく関わってくる。
王太子妃になるために必要なものは、容姿の美しさと愛嬌ではない。知識と能力、そして覚悟だ。
ロジーナのことは、一人の友人として好きだった。けれど、「それとこれとは別です。王太子妃という立場は、私情で譲り合うものでは決してありません。後悔の残らぬよう、自分にできることを最大限やりなさい」という、両親や教育係たちの教えに従い、私はひたすら勉強に励んだのだった。
宿った加護の力を開花させるために、欠かせない行いがあった。それは、大勢の民たちに対する慈悲の心を育て、彼らからの信頼を得ること。努力や礼節、そして民への献身が、自らに宿った加護の力を大きくし、国を救う。それがこのエヴァンシア王国に古くから言い伝えられていることでもあり、実際に加護持ちの王妃がいる時は、国内情勢は非常に安定していた。
過去の王国史を学び、私はその言い伝えが正しいものであると納得した。そして自分が授かった加護の力を最大限育てるために、できる努力は何でもしてきた。
子どもの頃から、私は領民たちの暮らしを間近で見るようにしていた。
たとえば、母が児童養護施設を訪問する際には、私も必ず同行する。
私が子どもたちの過ごす部屋に足を踏み入れると、皆決まって顔を輝かせた。
「あっ! アリスティーヌ様だ!」
「本当だ! アリスティーヌ様ぁ!」
「今日も来てくれたの? わぁい! アリスティーヌ様、絵本読んでー」
小さな子どもたちに囲まれると、その可愛さについ頬が緩む。
「ふふ。はいはい、もちろん。順番ね」
私は皆に絵本を読み聞かせたり、文字の書き方を教えたりし、時には一緒に外を駆け回り遊んであげることもあった。
また、救護院を訪れた時には、看護師たちの仕事を円滑にするために、山積みになった包帯を畳んだり、使い終えた器具を消毒するのを手伝ったりもした。
「人手が増えて助かりますわ。ありがとうございます、アリスティーヌ様」
「これくらいお安い御用ですわ! 私にできる仕事があれば、何でもおっしゃってください」
専門資格の必要がない簡単な仕事しかできなかったけれど、少しでも皆の役に立つことがあれば、積極的に手伝った。
父の領地視察に同行した際には、広大な麦畑や果樹園を見て回り、収穫量や天候のことを話す大人たちの会話に耳を傾けた。
黄金色に色づいた麦の穂が風に揺れ、その向こうには葡萄畑が広がっている。ベルロワ侯爵領は豊かな農業地帯として知られ、王都へも多くの農産物を出荷していた。
「領主様、ここまで足を伸ばしてくださり、ありがとうございます」
「うむ。今期の出来はどうだ」
「はい、春先の雨が少なくて心配しましたが、どうにか持ち直しました。去年より収穫量が増えるかもしれません」
「順調ならよかった。作物に病は出ていないか」
「ええ、今のところは……。ですが、近隣の村では穂に黒ずみが出ているようで」
話を聞きながら、どんなことが大変なのか、どこに不安材料があるのかなどを覚える。そして、帰宅後はそれらをノートに書き留め、自分なりに解決方法を考えた。
商人や職人の仕事についても学び、日々当たり前のように自分に与えられている衣食が、誰の手を経て届けられているのかを考え、彼らに深く感謝した。
ベルロワの領地に生きる全ての人々の平穏で幸せな暮らしを、私は日々願った。
毎日自分の部屋で、朝晩手を組み、祈りを捧げた。
我がベルロワ侯爵領民は、皆安定した生活水準を保ち、飢える者もなく、穏やかに暮らしていた。
同じ年に生まれた、二人の加護持ち令嬢。それも、ともに変革の力という、稀有な資質の持ち主。
二歳年上の王太子であるディオネル様のもとに、一体どちらの令嬢が嫁ぐことになるのか。皆の関心はそこにあったのだろう。幼い頃から母とともに参加する茶会では、いつも私とロジーナのことが話題に上っていた。
真っ直ぐな栗色の髪に、少し上がった漆黒の目を持つ私。生真面目なこの性格は表情に表れ、私は常に唇を引き結び、真顔を保って前を向いていた。
私とは対照的に、グリダ公爵家のロジーナは、それはそれは愛らしい容姿をしていた。
ふわふわと波打つピンクブロンドに、真ん丸な琥珀色の目。滑らかで真っ白な肌。口角の上がった桃色の唇は、常に微笑んでいるように見えた。そんな少女が、レースやフリルをふんだんにあしらったドレス姿で小首を傾げてみたり、無邪気な声で笑ったりすると、茶会に参加している大人たちは皆感嘆のため息を漏らした。
ロジーナはまるで、愛されるために生まれてきたような少女だった。
「ロジーナ嬢は本当に華やかですわ。まだたった四歳ですのに、快活で社交性もあって」
「ええ。将来が楽しみですわね。先日の王妃陛下主催のお茶会で、ディオネル王太子殿下と初めてお顔合わせをなさったのでしょう? 王太子殿下もロジーナ嬢を大層気に入ったご様子だったとか……」
茶会の席ではいつも、ご婦人たちがグリダ公爵夫人に向かい、ロジーナを褒めたたえる言葉の数々を並べていた。
グリダ公爵夫人はそれらの賛辞を聞きながら優雅に微笑み、謙虚な笑みを浮かべている。幼い私は、大人たちのそんな言動を注意深く観察し、それぞれの関係性や家格の強弱を自然と学んでいた。
ロジーナをひとしきり褒め終わると、今度は皆が私に視線を向ける。そして「そうだ、念のためこちらにもしっぽを振っておかなくては」とばかりに母に視線を移すと、社交用の笑みを浮かべ口々に言った。
「ベルロワ侯爵家のアリスティーヌ嬢も、とても素晴らしいですわ。ご覧になって。ずっと姿勢を正して座っていらっしゃるわ」
「ええ。幼いのに、本当に聡明で礼儀正しくあられますこと」
「ベルロワ侯爵家の教育水準の高さが窺えますわ。きっと立派にお育ちになりますわね」
容姿の美しさや愛嬌、可愛らしさを褒められるロジーナと、礼儀正しさや真面目さを称えられる私。
見た目も雰囲気もまるで共通点のない二人だったけれど、私たちはずっと、仲のいい友人同士として成長していった。ともに稀有な加護の力を持った令嬢として、そしてこのエヴァンシア王国の王太子であるディオネル殿下の婚約者候補として、顔を合わせる機会はとても多かったのだ。
やがて、ディオネル殿下も参加される王妃陛下の茶会に、私とロジーナが互いの母親とともに招かれる機会も増えていった。
大人たちが話している間、ディオネル殿下と三人で王宮の庭園を散歩したり、お喋りをしたり。勉強の合間の息抜きとして楽しい時間を過ごしたけれど、六歳の頃には、私はすでに気付いていた。
ディオネル殿下の視線が、常にロジーナにだけ向けられていることに。
艶やかな銀髪に、翡翠色の美しい目を持つディオネル殿下。彼とロジーナが二人で見つめ合いながら楽しそうに笑っている姿は、周囲の大人たちが感心するほど絵になっていた。誰が見ても、完璧にお似合いの二人だった。
その事実から目を逸らし、私はベルロワ侯爵家の娘として、なすべきことに勤しんだ。両親の望みは、私がディオネル殿下の妃となること。そしてそれは、およそ八万人のベルロワ侯爵領民の生活にも大きく関わってくる。
王太子妃になるために必要なものは、容姿の美しさと愛嬌ではない。知識と能力、そして覚悟だ。
ロジーナのことは、一人の友人として好きだった。けれど、「それとこれとは別です。王太子妃という立場は、私情で譲り合うものでは決してありません。後悔の残らぬよう、自分にできることを最大限やりなさい」という、両親や教育係たちの教えに従い、私はひたすら勉強に励んだのだった。
宿った加護の力を開花させるために、欠かせない行いがあった。それは、大勢の民たちに対する慈悲の心を育て、彼らからの信頼を得ること。努力や礼節、そして民への献身が、自らに宿った加護の力を大きくし、国を救う。それがこのエヴァンシア王国に古くから言い伝えられていることでもあり、実際に加護持ちの王妃がいる時は、国内情勢は非常に安定していた。
過去の王国史を学び、私はその言い伝えが正しいものであると納得した。そして自分が授かった加護の力を最大限育てるために、できる努力は何でもしてきた。
子どもの頃から、私は領民たちの暮らしを間近で見るようにしていた。
たとえば、母が児童養護施設を訪問する際には、私も必ず同行する。
私が子どもたちの過ごす部屋に足を踏み入れると、皆決まって顔を輝かせた。
「あっ! アリスティーヌ様だ!」
「本当だ! アリスティーヌ様ぁ!」
「今日も来てくれたの? わぁい! アリスティーヌ様、絵本読んでー」
小さな子どもたちに囲まれると、その可愛さについ頬が緩む。
「ふふ。はいはい、もちろん。順番ね」
私は皆に絵本を読み聞かせたり、文字の書き方を教えたりし、時には一緒に外を駆け回り遊んであげることもあった。
また、救護院を訪れた時には、看護師たちの仕事を円滑にするために、山積みになった包帯を畳んだり、使い終えた器具を消毒するのを手伝ったりもした。
「人手が増えて助かりますわ。ありがとうございます、アリスティーヌ様」
「これくらいお安い御用ですわ! 私にできる仕事があれば、何でもおっしゃってください」
専門資格の必要がない簡単な仕事しかできなかったけれど、少しでも皆の役に立つことがあれば、積極的に手伝った。
父の領地視察に同行した際には、広大な麦畑や果樹園を見て回り、収穫量や天候のことを話す大人たちの会話に耳を傾けた。
黄金色に色づいた麦の穂が風に揺れ、その向こうには葡萄畑が広がっている。ベルロワ侯爵領は豊かな農業地帯として知られ、王都へも多くの農産物を出荷していた。
「領主様、ここまで足を伸ばしてくださり、ありがとうございます」
「うむ。今期の出来はどうだ」
「はい、春先の雨が少なくて心配しましたが、どうにか持ち直しました。去年より収穫量が増えるかもしれません」
「順調ならよかった。作物に病は出ていないか」
「ええ、今のところは……。ですが、近隣の村では穂に黒ずみが出ているようで」
話を聞きながら、どんなことが大変なのか、どこに不安材料があるのかなどを覚える。そして、帰宅後はそれらをノートに書き留め、自分なりに解決方法を考えた。
商人や職人の仕事についても学び、日々当たり前のように自分に与えられている衣食が、誰の手を経て届けられているのかを考え、彼らに深く感謝した。
ベルロワの領地に生きる全ての人々の平穏で幸せな暮らしを、私は日々願った。
毎日自分の部屋で、朝晩手を組み、祈りを捧げた。
我がベルロワ侯爵領民は、皆安定した生活水準を保ち、飢える者もなく、穏やかに暮らしていた。