【完結済】すべて失った廃妃のはずが、隣国で幸せになりました ~ 追放先で加護の力が復活し、新王妃として大歓迎されています ~
3.
十四歳になる頃には、私とロジーナの加護の力に大きな差が出ていた。
神殿では、祈りを捧げる際にその場に現れる空気や水の変化を神官長が確認し、その記録の経過によって加護の力の推移が測られていた。
半年に一度のその測定では、ロジーナの加護の力は生まれた時からさほど変わっていないらしかった。この手の情報は、驚くほど早く社交界全体へと広まる。こちらが望んでいようがいまいが、様々な人の口から私たち家族の耳に入ってくるのだ。
自分さえしっかり頑張っていればいいというのは百も承知だった。けれど、私はロジーナのことが心配になり、顔を合わせた時にはやんわりと助言をしてみた。
「ねぇ、ロジーナ。その……、領民のもとへは足を運んでいるの? グリダ公爵領は民たちの生活水準が高いから心配はいらないし、差し出がましいとは思うけれど……。加護の力を育てるためには、彼らのもとに自分の足を運ぶことが、とても大事だから。民たちの声を聞いて、必要なものや困っていることがないかを確かめて、彼らの生活に心を配ることが……」
私がこんな話を始めると、ロジーナは決まって小首を傾げてくすくすと笑うのだった。
「ふふ。アリスはいつも真面目ね。偉いとは思うわよ、あなたのそういうところ。でもね、ディオネル殿下は真面目すぎる子って、お好きじゃないのよ。あの方は明るくて楽しくて、美しい子がお好きなんですって。私のことを、いつもすごく褒めてくださるもの。ロジーナは可愛い。君の笑顔をずっと見ていたい。早く君と夫婦になりたいって……。やだ、ごめんなさいね、アリス」
ロジーナははっとした表情になり、慌てたように指先で口元を覆った。
「今の言葉は、気にしないで。たしかにディオネル殿下はいつも、私と結婚したいっておっしゃるわ。でもきっと、ただの社交辞令よね。だって私から見たら、真面目で賢いあなたの方がずっと素敵ですもの! ディオネル殿下のご婚約者には、きっとあなたが選ばれるわ。……気を悪くしちゃった? ごめんなさいね、アリス」
「……いいえ。大丈夫よ」
ロジーナには昔から時々、こういうところがあった。私を不快にし、傷付けるようなことをぽろりと口にする。そして、十四歳となった頃には、私もうっすら理解していた。おそらくこれは、わざとなのだろうと。彼女はあえて私の心を折るための言葉を選び、それを私にぶつけているのだ。
けれど、それも仕方がないことだと思う。私が屋敷でさんざん言われてきたように、ロジーナだって言い聞かせられてきたはずだ。王太子殿下の婚約者の座は一つしかない。隙を見せるな。油断はするな。蹴落としてでもその座を得ろ、と。直訳すればそんな意味になるであろう言葉の数々を、彼女もたくさん言われてきたのだろうから。
私だって、分かっている。培ってきた知識や能力、そして民たちへの献身を全うするためには、王家に嫁ぐために全力を尽くすしかないと。それがベルロワ侯爵家に生まれた私の責務なのだから。
一介の貴族令嬢でいるうちは、領民のためにしか祈れない。けれど王妃となり、全国に足を運ぶようになれば、私の力はこのエヴァンシアに生きる全ての民たちに届けることができる。
引きつった笑みを見せる私に満足したように、ロジーナは目を輝かせて言葉を続けた。
「ディオネル殿下も私も、そういう伝承ってあまり信じていないのよ。民への慈悲の心がどうとか、努力と礼節がどうとか。力は選ばれた者に宿るのだし、王妃になればその力は自然と、王国の民全体のために花開くはず。それよりも、王家に釣り合う家柄であることがよっぽど大事だって、ディオネル殿下もそうおっしゃっていたわ」
「……そう」
「あ、でももちろん、私だってお母様と一緒に慰問に行ったりはしているわよ。だって行かないと、お父様やお母様にすごく怒られるんですもの。面倒よね、ああいう活動って」
そう言って、ロジーナは苦笑した。
グリダ公爵家の娘である自分の方が、ディオネル殿下の婚約者に相応しい。ロジーナはそう思っているのだろう。彼女の父であるグリダ公爵は外務大臣を務めており、このエヴァンシア王国の筆頭公爵家当主でもある。家柄だけで言えば、侯爵家の我が家は到底敵(かな)わない。
けれど私は、諦めなかった。王太子妃になることができれば、この稀有な力を国民全体のために使うことができる。エヴァンシア王国の安寧を保つことができる。
王国の繁栄と民たちの幸せを守るために、神が私にこの力を与えたというのなら、私は自分が生まれてきた意味を全うするのみだ。
そして、私とロジーナが十六歳になった時、ついに国王陛下からの通達があった。
ディオネル王太子殿下の婚約者に選ばれたのは、ロジーナではなく、この私だった。
神殿では、祈りを捧げる際にその場に現れる空気や水の変化を神官長が確認し、その記録の経過によって加護の力の推移が測られていた。
半年に一度のその測定では、ロジーナの加護の力は生まれた時からさほど変わっていないらしかった。この手の情報は、驚くほど早く社交界全体へと広まる。こちらが望んでいようがいまいが、様々な人の口から私たち家族の耳に入ってくるのだ。
自分さえしっかり頑張っていればいいというのは百も承知だった。けれど、私はロジーナのことが心配になり、顔を合わせた時にはやんわりと助言をしてみた。
「ねぇ、ロジーナ。その……、領民のもとへは足を運んでいるの? グリダ公爵領は民たちの生活水準が高いから心配はいらないし、差し出がましいとは思うけれど……。加護の力を育てるためには、彼らのもとに自分の足を運ぶことが、とても大事だから。民たちの声を聞いて、必要なものや困っていることがないかを確かめて、彼らの生活に心を配ることが……」
私がこんな話を始めると、ロジーナは決まって小首を傾げてくすくすと笑うのだった。
「ふふ。アリスはいつも真面目ね。偉いとは思うわよ、あなたのそういうところ。でもね、ディオネル殿下は真面目すぎる子って、お好きじゃないのよ。あの方は明るくて楽しくて、美しい子がお好きなんですって。私のことを、いつもすごく褒めてくださるもの。ロジーナは可愛い。君の笑顔をずっと見ていたい。早く君と夫婦になりたいって……。やだ、ごめんなさいね、アリス」
ロジーナははっとした表情になり、慌てたように指先で口元を覆った。
「今の言葉は、気にしないで。たしかにディオネル殿下はいつも、私と結婚したいっておっしゃるわ。でもきっと、ただの社交辞令よね。だって私から見たら、真面目で賢いあなたの方がずっと素敵ですもの! ディオネル殿下のご婚約者には、きっとあなたが選ばれるわ。……気を悪くしちゃった? ごめんなさいね、アリス」
「……いいえ。大丈夫よ」
ロジーナには昔から時々、こういうところがあった。私を不快にし、傷付けるようなことをぽろりと口にする。そして、十四歳となった頃には、私もうっすら理解していた。おそらくこれは、わざとなのだろうと。彼女はあえて私の心を折るための言葉を選び、それを私にぶつけているのだ。
けれど、それも仕方がないことだと思う。私が屋敷でさんざん言われてきたように、ロジーナだって言い聞かせられてきたはずだ。王太子殿下の婚約者の座は一つしかない。隙を見せるな。油断はするな。蹴落としてでもその座を得ろ、と。直訳すればそんな意味になるであろう言葉の数々を、彼女もたくさん言われてきたのだろうから。
私だって、分かっている。培ってきた知識や能力、そして民たちへの献身を全うするためには、王家に嫁ぐために全力を尽くすしかないと。それがベルロワ侯爵家に生まれた私の責務なのだから。
一介の貴族令嬢でいるうちは、領民のためにしか祈れない。けれど王妃となり、全国に足を運ぶようになれば、私の力はこのエヴァンシアに生きる全ての民たちに届けることができる。
引きつった笑みを見せる私に満足したように、ロジーナは目を輝かせて言葉を続けた。
「ディオネル殿下も私も、そういう伝承ってあまり信じていないのよ。民への慈悲の心がどうとか、努力と礼節がどうとか。力は選ばれた者に宿るのだし、王妃になればその力は自然と、王国の民全体のために花開くはず。それよりも、王家に釣り合う家柄であることがよっぽど大事だって、ディオネル殿下もそうおっしゃっていたわ」
「……そう」
「あ、でももちろん、私だってお母様と一緒に慰問に行ったりはしているわよ。だって行かないと、お父様やお母様にすごく怒られるんですもの。面倒よね、ああいう活動って」
そう言って、ロジーナは苦笑した。
グリダ公爵家の娘である自分の方が、ディオネル殿下の婚約者に相応しい。ロジーナはそう思っているのだろう。彼女の父であるグリダ公爵は外務大臣を務めており、このエヴァンシア王国の筆頭公爵家当主でもある。家柄だけで言えば、侯爵家の我が家は到底敵(かな)わない。
けれど私は、諦めなかった。王太子妃になることができれば、この稀有な力を国民全体のために使うことができる。エヴァンシア王国の安寧を保つことができる。
王国の繁栄と民たちの幸せを守るために、神が私にこの力を与えたというのなら、私は自分が生まれてきた意味を全うするのみだ。
そして、私とロジーナが十六歳になった時、ついに国王陛下からの通達があった。
ディオネル王太子殿下の婚約者に選ばれたのは、ロジーナではなく、この私だった。