リフォーム営業マンの小さなドキドキ短編集 エピソード3
エピソード3 第四話 『思い出にしよう』
壁を見つめている俺の前を、美香がふっと横切った。
カウンターに置いてあったレザーの手帳を手に取り、向かいの椅子に腰を下ろす。
そして、手帳をゆっくり開いた。
「この手帳に書いたの」
「……あの日の気持ち」
そう言って、美香は少しだけ恥ずかしそうに笑った。
「今日ね、ゆうが来る前に、もう一度読み返してたの」
ページをめくる。
「最後のページに書いてたの」
少しの沈黙。
「結局……言ってくれなかったよね」
俺は何も言えなかった。
「だから、ほんとは分からないままなんだよ」
美香は手帳を見つめたまま続けた。
「でも……良い方に解釈して、思い出にしたんだよ」
そして、顔を上げる。
「だから……言って欲しかった」
「言わなきゃ、分からないよ」
悲しい顔ではなかった。
なんだろう。
どこか包み込むような、優しい顔だった。
「……コーヒー、もういっぱい淹れるね」
美香はそれだけ言うと、すっと立ち上がってキッチンへ向かった。
俺も立ち上がる。
そして、その背中を追った。
キッチンに立つ美香の後ろから、そっと抱きしめる。
もう、迷わなかった。
「美香……」
言い聞かせるように、ゆっくりと言葉にする。
「俺、やっぱり美香が好きだ」
「大好きなんだ……ずっと」
もう、止められなかった。
いや。
ここは、伝えなきゃいけなかった。
美香は、俺の腕の中で何度も小さく頷いた。
そして、ゆっくり振り返る。
俺の胸に顔を埋めると、しっかりと、強く抱きしめてきた。
俺も、ただ、ただ抱きしめた。
一年分の時間を埋めるように。
もう一度、強く抱きしめる。
すると美香が、小さな声で言った。
「よしっ……」
少しだけ笑って、
「思い出にしよっ」
「……ありがとう」
その言葉のあと、美香は俺の胸に顔を埋めたまま、もう一度だけ言った。
「上書きできたよ……」
俺は何も言わず、美香を抱きしめていた。
窓から差し込む夕方の光が、あの壁を静かに照らしていた。
一年越しに残っていたものが、ようやく終わった気がした。
そして――
新しい思い出が、始まった。
END
カウンターに置いてあったレザーの手帳を手に取り、向かいの椅子に腰を下ろす。
そして、手帳をゆっくり開いた。
「この手帳に書いたの」
「……あの日の気持ち」
そう言って、美香は少しだけ恥ずかしそうに笑った。
「今日ね、ゆうが来る前に、もう一度読み返してたの」
ページをめくる。
「最後のページに書いてたの」
少しの沈黙。
「結局……言ってくれなかったよね」
俺は何も言えなかった。
「だから、ほんとは分からないままなんだよ」
美香は手帳を見つめたまま続けた。
「でも……良い方に解釈して、思い出にしたんだよ」
そして、顔を上げる。
「だから……言って欲しかった」
「言わなきゃ、分からないよ」
悲しい顔ではなかった。
なんだろう。
どこか包み込むような、優しい顔だった。
「……コーヒー、もういっぱい淹れるね」
美香はそれだけ言うと、すっと立ち上がってキッチンへ向かった。
俺も立ち上がる。
そして、その背中を追った。
キッチンに立つ美香の後ろから、そっと抱きしめる。
もう、迷わなかった。
「美香……」
言い聞かせるように、ゆっくりと言葉にする。
「俺、やっぱり美香が好きだ」
「大好きなんだ……ずっと」
もう、止められなかった。
いや。
ここは、伝えなきゃいけなかった。
美香は、俺の腕の中で何度も小さく頷いた。
そして、ゆっくり振り返る。
俺の胸に顔を埋めると、しっかりと、強く抱きしめてきた。
俺も、ただ、ただ抱きしめた。
一年分の時間を埋めるように。
もう一度、強く抱きしめる。
すると美香が、小さな声で言った。
「よしっ……」
少しだけ笑って、
「思い出にしよっ」
「……ありがとう」
その言葉のあと、美香は俺の胸に顔を埋めたまま、もう一度だけ言った。
「上書きできたよ……」
俺は何も言わず、美香を抱きしめていた。
窓から差し込む夕方の光が、あの壁を静かに照らしていた。
一年越しに残っていたものが、ようやく終わった気がした。
そして――
新しい思い出が、始まった。
END


