春はまだ、ここには来ない
暖かくなってきたから
便座の保温を切った。

相談は、しなかった。

春だし。
もう、いいだろうと思った。

しばらくして

「冷たっ」

と聞こえた。

あ。

またしばらくして

「つめた!」

二人目。

そして、

「え、冷たっ」

三人目。

どうやら
春はまだ
便座までは来ていなかったらしい。

少し早かったかな。

悪いことをしたな、と
ほんの少し思う。

けれどその日、

トイレの扉が閉まるたび
私はちょっとだけ
耳を澄ませていた。
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高校生の亜美には、忘れられない人がいる。 大学見学で偶然出会った、キーボードを奏でる憧れの人。 もう一度会いたくて、彼と同じ大学を目指すことにした。 そんな私には、何でも話せる年上の人と、孤独だった学校生活で初めて手を差し伸べてくれた同級生がいる。 ずっと好きだった人。 ずっとそばにいてくれた人。 ずっと私を想ってくれた人。 恋を知るほど、誰を好きなのか分からなくなっていく。 ――ねえ、本当に忘れられないのは誰?

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