【第2部】 エモパレ ~舞踏会編~ ―偽装夫婦になった私が、オジさま副局長に本当に選ばれるまで―

第43話 あたしに合うドレスなんて……あるの?


「ローゼッタおばちゃん! あたしに合う、貴族の夜会用のドレスってある!?」
「あらまぁ、ハルネちゃん。 ごめんねぇ、ウチはほら、飾りの良い服はあるけど平民用だから……」


―――――――


「ギルベットおじさん! あたしに合う、貴族の社交パーティー用のドレスって仕立てられる!?」
「おぉ、ハルネちゃん。 そりゃあ出来ない事もないが……いつまでだい?」
「今日っ!」
「無理」


―――――――


「ゼラちゃん! あたしに合う、社交パーティー用のドレス持ってない!?」
「なんでアタシのとこ来たの……?」
「だって……」
「そもそも、そういう仕立ての良い服は、ハルネの方が持ってるじゃないか」

 朝から駆けずり回り、馴染みの服飾店に声を掛けたけど、やっぱり無理だった。

 そりゃ当然だ。 今日中って……

 そして、なぜか勢い余って西街のリゼラちゃんの所にまで来てしまった。

「ねぇ! 貴族のパーティーに着ていける服、売ってるトコ知らない!?」
「そういうの、アタシよりハルネのが詳しいんじゃないの?」
「西街はあんまり知らないの!」
「アタシだってあんまり知らないよ! そりゃいくつか心当たりはあるけど……」
「それでいいから教えてっ!」

 こういう時は行動だ。
 とにかく足で探すんだ。

 リゼラちゃんちの農場まで来たのは、大分遠回りだった気もするけども。
 でも、じっとしているよりずっとマシだった。

「ほら、ココに書いておいたから……」

 納屋の軒先で待っていると、すぐにメモ書きを用意してくれるリゼラちゃん。

 持つべきものは親友だ。

「ありがと! ………………」
「……何モジモジしてんの?」
「……ええと」
「ははーん、何かアタシに聞きたい事あったんだ? わざわざここに来る用事としては、おかしいもんね」

 くそぅ、大雑把なリゼラちゃんにしては鋭い。

 でもそれはきっと本当の事だ。
 なので、遠慮なく相談する。


「実はね……」

 あんまり詳しい事は言えない。
 例の事件のお手伝いって事で、貴族向けの社交パーティーに、オジさまのパートナーとして出席することを説明する。

「いつの間にそんなに進展したの? アンタ達」
「いや~、色々あってね」
「ちょっと前まで「オジさまが―」って、ピーピー泣いてたクセに」
「うっ。 それを言われると痛い……」

 恥ずい……

 けど、あの時あたしが気持ちを立て直せたのは、間違いなくリゼラちゃんのおかげだ。
 心の中でお礼は言っておく。

「で?」
「……で?」
「それを言いに来たの?」
「ああ、えっと、その、あの、うーんと……」
「何よ、歯切れの悪い」

 だって……

「……ホントにあたしがパートナー役でいいと思う?」
「ハァ? 何? 惚気に来たのアンタ?」
「だって……」

 だって……

「そのオジさまの方から依頼されたんだろ? ハルネに」
「……うん」
「じゃあもうそれが答えじゃない! いくら恋愛に疎いアタシだってわかるよ、そのくらい!」


――リゼラちゃんの感情色は、呆れのバターイエローで一色だ。


「……やっぱり、そうなのかな?」

 一方のあたしは、「やっぱりあたしなんかが……」って気持ちが、一晩で再燃してきていた。

 ドレス姿で? あたしが? って。

「即断即決のハルネが、こんなふにゃふにゃになるなんて……アンタ、ちゃんと恋してるのね」
「……うん」

 そこはもう認めようと思う。

「……ふふ。 さっきも言ったけど、そのオジさまの方から頼まれたんでしょ? だったらちゃんと気に入られてるよ。 ハルネは」

 大きな瞳を細めて笑うリゼラちゃん。

 美人でスタイルも良い彼女にそう言われるのは、なんだかもにょもにょする所ではあるけれど……

「……そう?」
「そうだよ。 ほら、自信持って!」

 バンっと背中を叩いてくる親友。

 胸の奥できゅっと縮こまっていたもの。
 それが、リゼラちゃんの掌で、背中から押しだされたような気がした。

 うん、やっぱりリゼラちゃんといると気持ちいいね。

「……うん、そっか、そうだよね! 頼まれたんだもの! とにかくちゃんと、こなさなきゃ!」
「いつもの調子出てきたじゃん」
「うん! お邪魔してごめんね! じゃあ教えてもらったココに行ってみるよ!」
「まぁ、そこもそんなに期待は出来ないけどね。 頑張れよ、ルネちゃん!」

 春の陽射しを照り返す、一つ結びの金髪。

 チャーミングなそばかすに笑顔をトッピングして、リゼラちゃんは気持ちよく送り出してくれた。

 こうやって、親友の肯定を摂取したくてココに来たのかもしれない。

 随分遠回りしたけど、まだ時間はある。

 傾いた柵沿いに、緑のコーン畑のあぜ道を、早足で歩く。

 すると、前の方に見覚えのある人影が見えた。


――黒を差し色に、藍色に染め上げられたシックな制服。


「んえ! オジさま!」


――明るい茶髪に、人懐っこそうなタレ目と笑顔。


「……ん?」
「ちっス! ハル姐さん!」

 同じ調査局の官服を着た、レルガさんだった。

「オジさまかと思った……」
「まったく探しやしたぜ……」

 以前この場所で、全く同じようにオジさまに待ち構えられた事を思い出した。

「こんにちわ、レルガさん。 あたしに何か?」
「何か? じゃないッスよ……あれ? 隊長は言わなかったんスか? 朝、店の方に迎えの者が行くとか」
「え? オジさまが言ってたのは夕方迎えに来るとだけ……」
「……あ~、段取りはこっちで押さえてたんスけど、着付けの説明とかは抜けてたんスね…………隊長、女っ気無いから」

 あちゃーとばかりに、オーバーに顔を伏せるレルガさん。

「とにかく、調査局の方へ。 急ぎやしょう!」
「え? え? だって……」
「とりあえず調査局へ。 まずはそれからッス!」

 レルガさんは、あぜ道をしっかりとした足取りで先導する。

 あたしも置いていかれないよう、早足でそれを追う。

「焦りやしたぜ。 香房に行ったらエナ姐さんが「たぶんリゼラっちの所」って。 上手く捕まえられて良かったッスよ!」

 なぜあの子はあたしがリゼラちゃんの所へ行くと分かったのだ?

 シャリエナ……おそろしい子!

「レルガさん、あのね? あたしまだ夜会用のドレス、用意できてないんだけど……」
「あ~、そういう事だったんスね。 だから、その心配は無用ッス!」

 横に並ぶと、あたしの速度に自然に合わせてくれるレルガさん。
 この人……多分モテる!

「無用って……だって、その、あたしの……体型ってさ」
「ああ! 既製のドレスそのまま、とはいかねぇッスけど、ぜんぜん調整の範囲内ッス!」

 調整の範囲内?

 正直に言う。

 ドレスなんて代物、並大抵の既製品じゃ絶対入らない自信がある。 ……やな自信!

 それが調整でどうにかなるとは、とても思えないんだけど。


「もう一度言いやスけど、心配無用っス!」
 

 やけに確信を持って言うレルガさんを信じて、あたし達は調査局へと急いだ。


……………


「ところで、レルガさんって、なんでオジさまを隊長って呼ぶの?」

 道すがら、ふとレルガさんに以前から気になっていた疑問をぶつけてみた。

「ああ、ボスは以前、オレがいた部隊の隊長だったんスよ。 当時ビビりまくってたオレを随分買ってくれて。 尊敬の意味も込めて呼ばせてもらってるッス!」
「でも、オジさまは隊長って呼ばれるの、好きじゃないみたいね?」
「そうなんスよね……呼ぶとおっかないし」
「じゃ、なんでわざわざ呼ぶの?」
「……オレが隊長って呼ぶと、必ずツッコミを貰えるんスよ。 隊長と呼ぶな、と。 それがなんだか嬉しくて、つい」
「ふふ、なるほどなー」
「ま、どうでもいい事ッスけどねー」


――そう言いつつも、ほんのり薄めのオレンジの感情色を見せるレルガさん。


 これは嬉しみの色。
 レルガさんはおそらく、オジさまに軽く甘えてるんだ。

 天然なのかな?
 うーん、だとしたらレルガさんは、相当に人と距離を詰めるのが上手いのかも。

 しかし、いちいちツッコむオジさまもカワイイ。
 気付いてないはずはないし、意外と知ってて放置してるのかも?

 なんとなく聞いたレルガさんへの疑問から、オジさまの事を聞けて……

 あたしはちょっと嬉しくなった。



―――――――



 相変わらず閑静な調査局のロビーを抜け、とある一室へ案内された。

 扉の見た目から、会議室のような部屋を想像した。

 しかし、足を踏み入れたそこには、壁一面に、衣装ラックが整然と並んでいた。

 軍服、平民の普段着、作業着っぽいモノ。
 給仕服も何種類かある。 地味目なデザインのものに、可愛らしいメイド服も。
 その奥には、場違いなほど綺麗なマーメイドドレスが見える。

 とっても大きなウォークインクローゼットのような部屋。
 
 その備えの厚さに、調査局が調査局たるゆえんを見せつけられたような気分になった。

「ほえ~」
「第二調査局は、第一と違って、潜入任務もよくあるんスよ」

 衣装の数に感心の声が漏れていたあたしに、レルガさんが補足してくれた。

「貴族の夜会から下街の酒場まで。 潜入に服は付き物ッスからね」
「そうなんだ……」

 でも……

「たしかにすごい数の衣装だけど、あたしに合うサイズなんて……」

 ドレスもいくつか用意があるみたいだ。

 しかし、ちょっとやそっとの調整じゃ、あたしに合うサイズになるとは思えない。

「言ったっスよね? 想定内だって」

 そう言ってレルガさんは部屋の奥へ向かう。

 奥の作業机で、何かの作業をしている背の低い女の子。
 黒髪おかっぱの、ちみっこいメイドさんだった。

「紹介するッス。 妹のトリサっス」
「むむむ? なんだ、兄か」

 作業の手を止め、こちらにトトトと歩いてくる、ちみっこメイドさん。

「どもども。 ご紹介にあずかりもうしたトリサでござい」

 あら、かわいい。

 スカートの裾を軽くつまみ、きれいな膝折礼。
 妙な口調と、きちんとしたカーテシーにちぐはぐな印象を受ける。

 でも、猫のようなツリ目が、どこか上品に見えた。

「こちらこそ、どもども。 あたしはハルネ・サフランと申すでござい」

 妙な口調が移った。

「むむっ……この人が今日のおねーさん?」
「そう。 ハル姐さんッス」

 トリサちゃんが、あたしを上から下まで眺める。

 ぱぁっと顔が輝いた。


「ふくふくのおねーさん!」


――タッタッタ、ぽふっ!


 トリサちゃんが、ためらいもなく、あたしの胸めがけてタックルしてきた。

「トリサ、やめい。 ……ハル姐さん、こう見えて、トリサは異能持ちッス」
「異能……?」

 兄の言う事に耳を貸さず、あたしの胸にうずくまりながら、うにうにと顔を動かすトリサちゃん。


「そうッス。 通称……『針子のトリサ』」

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