死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
プロローグ
 あわててやってきた女中の悲鳴じみた声を聞いた瞬間、心臓が凍りついた。

「大奥様と、鈴子(すずこ)様、千草(ちぐさ)様が……きゅ、急に気分が悪いと苦しまれて……」

 嫁いできてからずっと、この家で私は歓迎されない存在だった。
 汚らわしいものでも見るような視線、閉ざされたままの台所の戸、部屋から一歩も出るなという、有無を言わせぬ命令。
 ——それでも、私は天澤(あまさわ)家の一員だ。

 三人のもとへ駆けつけると、そこには見る影もなく変わり果てた義母たちの姿があった。
 真っ青な顔で身体を丸め、脂汗を浮かべながら苦しむ三人。
 いつも私を見下すように見つめていたあの瞳は、今は苦痛にきつく閉じられている。

「余計なお世話よ。放っておいてちょうだい」
 
 差し出した手を振り払われる。
 それでも構わなかった。ここで手を止めれば、三人の命に関わるかもしれない。
 
 医師だった父の顔が、脳裏をよぎった。
 
『困っている人を助けられる医者になれなくても、この本があれば大切な人を救える』

 あのとき父のくれた言葉が、今の私を動かしていた。

「お義母様、お水を飲んでください」

 拒まれても私はあきらめなかった。なぜなら私は、医師・桐ケ谷(きりがや)時宗(ときむね)の娘だから。
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