死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
第四章 失ったもの
 銀座へ出かけた日から半月ほどが経過した。
 相変わらずお義母様たちは私との接触を避けていて、台所にすら入らせてもらえないけれど、それでもこの生活に少しずつ慣れてきたところだ。

「それは……お父上の本か?」

 夜に部屋で本を読んでいるところを、篤志さんに見られてしまった。

「……はい。すみません」
「謝らなくてもいいだろう。どんな本なんだ?」
「家庭醫學(いがく)新書、という本です。実家でも父の書斎から持ち出しては、よく読んでいました。なんだか懐かしくて」

 それは分厚い洋装本で、家庭でできる看病の対処法があれこれ書かれてあるものだ。

『困っている人を助けられる医者になれなくても、この本の知識があれば大切な人を救える』
『自分の部屋に持って行って読むといい』

 笑みを浮かべながらそう言っていた父の顔を思い出すと、じわりと目頭が熱くなってくる。

「俺の書斎にある本も、気になるものがあるなら読んでいいから」
「え! 旦那様の本をお借りしても?」
「近代日本文学や世界文学、西洋の美術や建築物について書かれた本なんかもある」

 その言葉を聞き、気づけば私は自然と目を輝かせていた。
 篤志さんの書斎には私の知らない世界が広がっているのだと思うと、ワクワクせずにはいられない。
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