死病の花嫁は薬商伯爵に溺愛される~大正政略結婚、不遇令嬢の幸福論~
「あの、本当に私が旦那様の貴重な本に触れてもいいのですか……?」
「ああ。おいで。一緒に見よう」

 うれしさで声を少し上ずらせながら問いかける私を見て、篤志さんは目を細めて書斎のほうへ手招きした。

「本当にたくさんありますね」

 ずらりと並べられた本棚を見て、思わず感嘆の声をあげた。
 その一角に、ひときわ異彩を放つ重厚な本に目が留まる。
 背表紙に刻まれた見慣れぬ横文字の羅列から、おそらく西洋の哲学か歴史について書かれた難しい本のようだけれど、私は吸い寄せられるようにじっと見てしまった。

「これが気になるか? イギリスの思想について書かれた本だ」

 篤志さんはその重みのある一冊を棚から引き抜くと、私に向けてそっと両手で差し出してくれた。
 
「読んでみるといい。ここにあるものは、俺の許可を取らなくても自由に読んでかまわないから」

 彼の言葉を聞いて、思わず満面の笑みを浮かべた。珍しい本をたくさん読めるなんて、こんな贅沢なことはない。
「ありがとうございます」とお礼を言い、私は渡された本を胸に抱いた。

 それから数日、私は夢中で本を読んでいた。
 どんな本も読んで損ということはない。昔、父がそう言っていたのを思い出す。
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