王妃になりたくない大聖女は、今日も婚約者から逃亡する

一章 大聖女の誕生

 運命というものは、本当にある日突然、思いもよらぬ瞬間に狂ってしまうものである。




「……フィオレリア・セシル・ローゼンハイム」
「は、はい……」
「貴女は大いなる神の祝福を受けていると、たった今この水晶によって証明された。よって本日より、フィオレリア・セシル・ローゼンハイムはこの王国を象徴する大聖女であると、ここに宣言する!!」

 神官長がそう高らかに宣言する。その瞬間、周りにいた神官達や両親がワッと歓声をあげた。
 一方、私はというと____

「わ、私が……大聖女ですって~~……?」

 ____半ば涙目になりながらそう呟いて、ヘナヘナとその場に崩れ落ちたのだった。

 ……なぜこんなことになってしまったのか、時は少し前に遡る。

 ***

 ガタゴトと心地よく揺れる馬車に乗って、私ことフィオレリア・セシル・ローゼンハイムは、両親と兄のセドリックと共に教会へ向かっていた。

「ふぁ~……ねむ……」
「ちょっとフィオレリアったら、はしたないわよ。あなたも今日で十七歳になるんだし、もしかしたら____」
「私が聖女かもしれない……って言いたいんでしょう? 大丈夫よお母様、そんなこと絶対にあり得ないんだから!」

 私が自信満々に言い切ると、母は呆れたように笑って呟く。

「……まぁ確かに、あなたは聖女ではなくて騎士になることを夢見ている、変わり者のお転婆娘だものね……」
「そうそう、だから『聖なる石』が私に反応するわけがないわ。私は女騎士になって、お兄様と一緒に戦場を駆け回るの!」
「あはは、それは楽しみだなぁ」



 ____そう、私の暮らすアヴェリオン王国には、『聖女』が存在している。

 そのためこの国では、十七歳の誕生日に教会へ赴き、聖女としての素質があるかを判定する儀式を行う必要があるのだ。

 聖女の癒しの力は、神秘的だと聞く。それこそ、ちょっとした怪我や病気なら、簡単に治せてしまうらしいもの。

 だから、聖女はとても尊い存在として大切に扱われるし、身分だって高い。
 どのくらい高いかというと、聖女は例え平民出身であろうと、貴族の婚約者に選ばれるくらい。
 その中でも、特に素質が高い聖女は王族に嫁ぐ決まりなのだ。

 ちなみにこれは最早伝説のようなものだけれど……この国では数百年に一度、強力な力を持った『大聖女』が誕生するらしい。

 当然大聖女様が現れたとしたら、王太子の婚約者に宛てがわれる。まぁ、つまりは大聖女に生まれた時点で、王妃様になる未来が確定しているようなものだ。

 そのくらい、アヴェリオン王国では聖女というのは尊い存在なわけで……。

 間違えても私みたいな、名門公爵家の令嬢のくせして日々鍛錬に励んでいるような……。そんな淑女らしさの欠片もない人間が、清く正しく優しい心を持った聖女様なわけがないのである。



 そんな風に高を括った状態で、私は馬車を降りて教会へ足を踏み入れた。

 それから、大勢の神官の前で挨拶をし、『聖なる石』こと水晶に手を軽い気持ちで触れた瞬間____水晶が、教会全体をパァ!っと明るく照らすように激しく発光したのである。



 ……そして、現在に至る……というわけ。
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