本日、私の妹のことが好きな婚約者と結婚いたしました。
 私は一度目を瞑ってから、ゆっくりと深呼吸をする。

 それから少し憂鬱な気持ちで瞼を開くと、扉の奥に呆然と立ち尽くしている人物が目に入った。

 私は小さな声で、そっと声を掛ける。

「……ユージン様、どうかなさいましたか?」
「…………君は……ベルナデッタ、か……?」

 ユージン様はまるで信じられないといった様子で、私の名前を呼んだ。

「はい、本日よりあなたの妻になります、ベルナデッタです。……何か私の格好でおかしいところでもありましたでしょうか?」

 ……素直に「似合っているでしょうか」と聞けばいいものを、相変わらずこんな可愛げのない聞き方しかできない。

 本当に、自分が嫌になるわ。
 こんな時、きっとビアンカだったら可愛く聞けるのに……。

 中々返事が返ってこないので俯いていると、絞り出したような小さな声が聞こえてきた。

「……まぁ、その、ま、馬子にも衣装だな」

 ユージン様は私の問いかけに対して硬直した姿勢のまま、私の顔も見ずにそう答えた。

 ____馬子にも衣装、か。

 まぁ、似合っていないと言われなかっただけ、良かったのかもしれないわ、これで……。

 そんなことを思いながら、もう一つ気になっていたことを問いかけた。

「そういえば、この部屋に入る直前、ビアンカともすれ違ったのではないですか?」

 すると、彼は私以外に見せるにこやかな笑顔でこう答えたのだ。

「あぁ、ピンクのドレスがビアンカの髪色によく似合っていたな」
「……はい、私もそう思います」
「それに、俺の衣装も『よく似合っている』と褒めてくれたんだ」

 ____やっぱり、彼はビアンカに対してはこんなに優しい笑みで褒めるのね。

 わかっていたはずなのに、胸がじくじくと傷んだ。
 それに、私より先にビアンカは彼の姿を見て、その姿を褒めたのね……。

 あんなに姉想いの素敵な子なのに、胸がチクリと痛む。

 彼の結婚相手が、私ではなくビアンカだったらこんな想いはせずにすんだのかしら。
 尤も、ビアンカの方にはそんな気はさらさらないようだけれども……ね。

「……そろそろ、式が始まる時間です。行きましょうか」

 私が彼に声を掛けると、ユージン様は少し口篭ってから、決心したように口を開いた。

「その……君から見て、今日の私はどうだろうか?」
「……素敵ですわよ。本当に、こんな殿方と一緒になれるなんて、私は世界一の幸せ者ですわ」
「そ、そうか……!」

 この言葉に、嘘はないわ。

 ……ただ少し、確かな苦い想いが混じっているだけ。

「では……行こうか、ベルナデッタ」
「はい、ユージン様」



 私達はこれから、結婚式を挙げる。

 一体どんな式になるのか、それはわからないけれど……

 ____全てが終わったその後で、彼に伝える言葉だけは、ハッキリ決めている。

 私は彼の手を取ってゆっくりと階段を降りてから、二人で式場の大きな扉の前に立った。


 彼と私による愛のない結婚式が、始まろうとしている。
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