軍医と傷読みの花嫁 ~閉じこもり薬師は、傷もちの旦那様に愛される〜
軍の講堂には、軍服姿の将校や軍医たちが整然と並んでいた。父、憲一と二ノ宮の姿もある。壇上には軍旗が掲げられ、厳かな空気の中、一人ずつ名が読み上げられていく。
「安藤将臣軍医」
将臣は一歩前へ進み出ると、静かに壇上へ上がった。
司令官から将臣へ辞令書が手渡される。
「司令部勤務を命ずる!」
静かな拍手が講堂に広がる。
誰もが栄転を祝う中、将臣だけは受け取った、その白い辞令書をじっと見つめていた。
(この紙切れ一枚が……妙に重い)
「以上をもって、辞令の交付を終える」
司令官が席へ戻ろうと踵を返した、その時だった。
「お待ちください」
将臣の低く鋭い声が、講堂の天井に響き渡った。
司令官の足がピタリと止まる。居並ぶ将校たちが、一斉に将臣へと視線を向けた。
列の中にいた憲一と二ノ宮が、息を飲む。
将臣はまっすぐに司令官を見据えて深く一礼した。
「恐れながら──」
指先が白くなるほど、辞令書を強く握りしめる。だが、その瞳は一切、揺がない。
「この辞令……固辞いたします」