軍医と傷読みの花嫁 ~閉じこもり薬師は、傷もちの旦那様に愛される〜



 将臣の部屋で、晴臣は腕を組みながら落ち着きなく往復していた。ふと、足を止めて、衣紋掛けにかかる兄の軍服を見る。
 将臣はすでに白いシャツとズボンに着替えていた。
 その姿を見て、晴臣の胸がざわつく
「兄上、本当に……本当に出ていくのですか!?」
「ああ」
 荷物を鞄に詰め込む将臣の手は止まらない。
 晴臣は我慢できずに将臣へ詰め寄った。
「軍を辞めてまでっ……! 明日からどうするんだよ、少し冷静になったほうがいい!!」
「安心しろ。軍医を辞めても、医者として生きる道はある」
「兄上……」
 晴臣の勢いがすうっと削がれていく。
「ずっと……お一人で抱えていたんですね」
「……ああ。私は、軍の組織には向いていない」
 すでに迷いのない、静かな声だった。
 晴臣の脳裏に、かつて兄が怪我を治して助けた猫の結丸が思い浮かんだ。
「兄上は……昔から、弱いものほど放っておけない人でしたから」
 晴臣は眉を寄せて、目の端に涙を浮かべた。
「だからこそ……戦場で……っ、うっ、ううっ……!」
「晴臣、私のために泣くな」
「だってっ!!」
 将臣は立ち上がり、晴臣をまっすぐ見つめた。
「私は無責任な男だ。安藤家の期待をすべて裏切るのだからな。この罪は重い」
「その分……! その分、兄上は十分に苦しんでこられたじゃないですかっ!!」
 晴臣の瞳から涙がポロリと溢れ落ちる。
「だから……俺は、兄上を応援しますっ!」
 将臣はふっと眉を下げると、晴臣の頭を優しく撫でた。
「頼もしい弟がいて……私は幸せだな」






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