軍医と傷読みの花嫁 ~閉じこもり薬師は、傷もちの旦那様に愛される〜
町外れの長屋へとやってきた。
軒先には洗濯物が風に揺れ、子どもたちが元気よく駆け回っている。縁台ではおばあさんが日向ぼっこをし、井戸端では女たちが水を汲みながら楽しそうに世間話をしていた。
「傷の先生ー!」
子どもが一人、勢いよく駆け寄ってくる。
(傷の、先生?)
思いがけない呼び名に、凪は目を丸くした。
「見て! 足の怪我、綺麗に治ったよ」
誇らしげに足を差し出す子どもへ、将臣は穏やかに笑う。
「毎日きちんと消毒を続けたからだ。よく頑張ったな」
ぽん、と頭を撫でると、子どもは嬉しそうにはにかんだ。
(ああ……顔の傷は、もう誰も怖がっていないんだ)
子どもは今度は凪を見上げ、不思議そうに首を傾げる。
「この人、先生の奥さん?」
その声に井戸端の女たちまで振り向いた。
「まあまあ、本当に綺麗な奥さん!」
「先生も隅に置けないわねぇ」
からかうような笑い声が広がる。
将臣の耳がみるみる赤く染まった。
その熱が伝わったように、凪まで頬が熱くなる。
将臣は照れ隠しのように小さく咳払いをした。その後に、
「……ありがとうございます」
と、誰にも聞こえない声で呟く。
「診察がありますので」
すぐに医師の顔になる。
「あら、照れちゃって」
女たちは口元を押さえ、ますます楽しそうに笑う。
その笑い声に包まれながら、凪は将臣の背中を見つめた。
ほんの少しだけ胸がくすぐったくて、気づけば自然と口元がほころんでいた。凪は、その背中を追うように歩き出した。