軍医と傷読みの花嫁 ~閉じこもり薬師は、傷もちの旦那様に愛される〜



 凪の涙が止まらない。
「私……心から、望まれていた……?」
「くっ……う、ううっ……!」
 溢れ出す感情の堰が切れ、凪は両手で顔を覆って号泣した。
「父上っ……本当のことを教えてくれて、ありがとうございます……っ!」
 源一郎の言葉には、嘘偽りのない真実の響きがあった。

 あの時、写真帖の傷から読み取った強烈な後悔──それは『凪を産んだこと』への後悔ではなかった。母を死なせてしまった自分自身への、源一郎の後悔の念だったのだ。

(傷を読んだのに……私は、読み間違えていたんだ……!!)
 凪にとって、それは世界がひっくり返るほどの衝撃だった。
「だから凪、安心して……安藤家に帰りなさい」
 源一郎の分厚い手が、凪の肩をそっと包み込む。父親の体温が、服越しにじんわりと伝わってきた。
(父上の手は……こんなにも温かかったんだっ!)
 長年、自分を縛り続けていた氷のような冷たさが、すうっと溶けていく。
 凪は何度も頷き、濡れた目元を溢れる涙ごと強く拭った。
「父上……ありがとうございます。私、胸の中が……すっかり晴れました」
「そうか……その顔が見られただけで、わしは十分じゃ」
 源一郎は目を細め、静かに何度も深く頷いた。

 凪は、幼い頃から冷たい場所だと思っていたこの家が、今はもう、少しも怖くなかった。








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