禁死篇 ~成人前に亡くなったけど、異世界で元気にがんばってます。
僕の叔父さん ②
ユウキはサイラスの肩を軽く掴んだ。
「……サイラス、覚えているか? 向こうで死んだのはクリスマス前だった。事故に遭った時、『救急車が来る、がんばれ』って声を掛けてくれる人たちがいて、どこからかクリスマスソングが流れていた……。あの事故は成人式の前だ。季節は冬だった」
ユウキは詳しく〈僕の最期の日〉の 話を始めた。もしかすると、自分がゆうきであることの証明のために話しているんだろうか?
「もちろん、覚えてる!」
サイラスはきっぱり答える。僕にとっては、ほんのひと月前のことだ。あの日を忘れるはずがない!
ユウキは軽く頷く。
「意識が消える前に、私は『救急車が来る』と励ましてくれた人たちの幸せを祈った…。お前はこれを誰にも話したことはないはずだ。そうだろう?」
そりゃそうだよ、あの後すぐに死んじゃったんだから。誰に話すんだよ! 無理だろ!
「……ユウキは本当に僕なんだ?」
サイラスは肩をすくめる。人間がふたりに分裂するなんて、本当なのか? スライムじゃあるまいし!
「私はお前だ。お前が納得できるかどうかは関係ない。ここは異世界だから、何があっても不思議じゃない。私が目覚めたのは三十年前の冬だ。ゆうきの記憶を持ったまま、赤ん坊に生まれ変わった。…大人の知識があるから神童レベルに賢い子供だったぞ?」
ユウキは少しおどけたように笑う。
「僕なんか、人生を十五年もスキップしちゃった! こっちに来ていきなり成人式だよ? なんか損した気分だ」
僕とユウキはまるで近況報告のように話し合うと、どちらかともなく笑った。ユウキを全面的に信じていいのかわからないけど、異世界でひとりぼっちよりはマシな気がする。
「サイラスが『片割れ』だってことは、お前が子供の頃からわかっていたんだ。お前、小さい頃に前世の記憶をべらべらしゃべっていたんだぞ!」
「うそっ?」
おかしな前世の記憶を話すのは危険だから、「サイラスの記憶を封じた」とユウキは言った。
「記憶を封じた?」
サイラスは目を瞠る。記憶を封じるってなに? いや、怖いんだけどっ!
「私には霊力があるんだ。私がお前の成人祝いに来たのは、お前の封印が解けたのがわかったからだよ」
ユウキは僕に運ばせた細長い包みを、手早く開け始める。風呂敷のような布包みの中に、さらに和紙のような強度のある紙で包まれた長方形の箱が出てくる。
ユウキが箱を開けると、中には金色の錫杖が入っていた。かなり使い込まれた感じのものだ。
「…サイラス、よく見ていなさい」
ユウキはカッカラをシャランと揺らす。錫杖の頭の部分に嵌っている輪っかを「ゆかん」を呼ぶ。遊環が揺れて、美しい独特の音色を出す。
錫杖を扱う錫杖術のようなものがあるのだろうか? ユウキはまるで舞うように、錫杖をクルリと回して綺麗な型を作った。
彼の体から立ち上る青いエネルギーの流れが見える。
「…あ?」
ユウキの錫杖の遊環の部分が青い光に包まれる。そして、遊環のうちのふたつだけがさらにキラキラ強く光り始めると、ぼんやりと影が揺らめく。
ユラユラ揺れている影が、ゆっくりと人形 に変化していく。
「……お、母さん?」
サイラスは思わず声を上げてしまう。母だ。微笑みながらこちらを見ている姿は、まるで立体映像だった。そして、もうひとり…。
「さやか?」
姉のさやかの姿もあった。ふたりとも静かに微笑みながら、こちらをじっと見ている。半透明に透き通っていてとても生身の人間とは思えないが、たしかにふたりの姿だった。
「お母さん! さやか!」
サイラスは叫んだ。ユウキのカッカラにはたくさんの遊環が嵌っている。その中のひとつが母で、ひとつが姉のさやかなのだ。
ユウキがキラキラ光るカッカラを振り回すと、母とさやかの姿が揺らめきながら大きくなったり小さくなったりする。
やがて「母の加護、姉の慈悲」と唱えてユウキが錫杖をシャランと振ると、ふたりの姿は静かに消えていった。
「サイラス、私はふた月は滞在するから、滞在中に錫杖術を教えてやるよ。霊力はすぐに必要になる。私もそうだったから…」
ユウキは有無をいわせずにそう言って、サイラスを見た。
「僕にも霊力があるの?」
「当然ある。お前と私は同一人物だからな。…サボらず鍛錬しろよ!」
錫杖術を教えてもらえるのはありがたい。だけど、「すぐに必要になる」というのはどういう意味? たくさんの疑問が湧いてくる。まだまだこちらの世界の知識が足りていない。
「ユウキのカッカラ、どうしてお母さんとさやかが…?」
「お前のカッカラについている遊環はまだ二つだけだろう?」
ユウキは腕組みしたまま、サイラスの質問はサラッと軽く流す。
たしかに、僕の錫杖には遊環が二つしかついていない。ユウキは僕のことにずいぶん詳しいみたいだ。
「霊力が増すと遊環も増えていく。私も最初は二つきりだった。母と姉のご加護しかなかった。……あれは当然母でも姉でもないが、私たちを守ろうとするふたりの気持ちが、こちらの世界で具現化しているものだと思う」
(どういうこと?)
言うまでもないことだがと前置きして、ユウキは「前世の記憶については他言無用だぞ?」とサイラスに釘を刺してくる。
「この世界には前世や生まれ変わりという概念はないからな! 兄上やオリバーに無駄な心配をかけるなよ?」
ユウキはきっぱりと言い切る。まぁ、僕だって前世の話なんてするつもりないけどね。
「そういえば、アトス寺院で小姓をつけるんだろう?」
「あ、まだ誰にするか決めてなくてさ…」
「タママがいい、タママにしなさい!」
えっ、ユウキ、僕の小姓まで選ぶつもり? 前世の僕って、こんな強引なヤツだったか? もっとフレンドリーで優しいゆうきくんだったよね?
「アレは心がきれいだから、サイラスに合っている」
「…えーと、ユウキはタママを知ってるの?」
「そりゃ、アトス寺院で働いていたからな! タママは当時二歳くらいだったか?」
赤ん坊なんて、たいてい素直で心がきれいなモンじゃないか? 他人の小姓を適当に選ぶなよ。
「あのさ、小姓は力仕事も多いから、体格のいい子を選びなさいって主事に言われたんだけど…」
「そうか? タママはきっと小柄に育っているだろう。まぁ、お前も小柄だし問題ないよな?」
「………」
「タママは訳ありの子で、寺院と親元を行ったり来たりさせられていた子供だ。日本の言葉でいうと、育児放棄に近い」
訳ありの子をわざわざ小姓に選ばなくても…と思ったが、ユウキの強い推薦で小姓はタママに決まりそうだ。
「タママのことはずっと気がかりだったんだ。お前だって、事情を知ったら小姓にしたくなるはずだ。…俺たちは同一人物だからな!」
そこまで言ってから、ユウキは自分の部屋に飾られている結婚記念の絵姿に目をやる。
「……飾ったのか? これを」
そこには金髪の美しい女性と並んでいるユウキの姿があった。ふたりはにっこりと微笑んでいる。
「はぁ…。これを飾るのはやめてほしいと言っているのに。シオドアも懲りないな!」
「ユウキ、金髪美人と結婚できたんだね?」
サイラスが言うと、ユウキは少しだけ胸を張る。
「まぁな。実物のシャーロッテの方が、この絵姿よりもずっときれいだよ! だから私はこの絵があんまり好きじゃないんだ!」
えっ…そういう理由? 恥ずかしいとかじゃなくて? ユウキって、本当に僕なのか? 日本にいた頃と性格が違いすぎない?
恥じらいとか謙譲とか、ゆうきの中の素晴らしい部分は全部僕の方にきちゃったのかもしれないね!
「……サイラス、覚えているか? 向こうで死んだのはクリスマス前だった。事故に遭った時、『救急車が来る、がんばれ』って声を掛けてくれる人たちがいて、どこからかクリスマスソングが流れていた……。あの事故は成人式の前だ。季節は冬だった」
ユウキは詳しく〈僕の最期の日〉の 話を始めた。もしかすると、自分がゆうきであることの証明のために話しているんだろうか?
「もちろん、覚えてる!」
サイラスはきっぱり答える。僕にとっては、ほんのひと月前のことだ。あの日を忘れるはずがない!
ユウキは軽く頷く。
「意識が消える前に、私は『救急車が来る』と励ましてくれた人たちの幸せを祈った…。お前はこれを誰にも話したことはないはずだ。そうだろう?」
そりゃそうだよ、あの後すぐに死んじゃったんだから。誰に話すんだよ! 無理だろ!
「……ユウキは本当に僕なんだ?」
サイラスは肩をすくめる。人間がふたりに分裂するなんて、本当なのか? スライムじゃあるまいし!
「私はお前だ。お前が納得できるかどうかは関係ない。ここは異世界だから、何があっても不思議じゃない。私が目覚めたのは三十年前の冬だ。ゆうきの記憶を持ったまま、赤ん坊に生まれ変わった。…大人の知識があるから神童レベルに賢い子供だったぞ?」
ユウキは少しおどけたように笑う。
「僕なんか、人生を十五年もスキップしちゃった! こっちに来ていきなり成人式だよ? なんか損した気分だ」
僕とユウキはまるで近況報告のように話し合うと、どちらかともなく笑った。ユウキを全面的に信じていいのかわからないけど、異世界でひとりぼっちよりはマシな気がする。
「サイラスが『片割れ』だってことは、お前が子供の頃からわかっていたんだ。お前、小さい頃に前世の記憶をべらべらしゃべっていたんだぞ!」
「うそっ?」
おかしな前世の記憶を話すのは危険だから、「サイラスの記憶を封じた」とユウキは言った。
「記憶を封じた?」
サイラスは目を瞠る。記憶を封じるってなに? いや、怖いんだけどっ!
「私には霊力があるんだ。私がお前の成人祝いに来たのは、お前の封印が解けたのがわかったからだよ」
ユウキは僕に運ばせた細長い包みを、手早く開け始める。風呂敷のような布包みの中に、さらに和紙のような強度のある紙で包まれた長方形の箱が出てくる。
ユウキが箱を開けると、中には金色の錫杖が入っていた。かなり使い込まれた感じのものだ。
「…サイラス、よく見ていなさい」
ユウキはカッカラをシャランと揺らす。錫杖の頭の部分に嵌っている輪っかを「ゆかん」を呼ぶ。遊環が揺れて、美しい独特の音色を出す。
錫杖を扱う錫杖術のようなものがあるのだろうか? ユウキはまるで舞うように、錫杖をクルリと回して綺麗な型を作った。
彼の体から立ち上る青いエネルギーの流れが見える。
「…あ?」
ユウキの錫杖の遊環の部分が青い光に包まれる。そして、遊環のうちのふたつだけがさらにキラキラ強く光り始めると、ぼんやりと影が揺らめく。
ユラユラ揺れている影が、ゆっくりと人形 に変化していく。
「……お、母さん?」
サイラスは思わず声を上げてしまう。母だ。微笑みながらこちらを見ている姿は、まるで立体映像だった。そして、もうひとり…。
「さやか?」
姉のさやかの姿もあった。ふたりとも静かに微笑みながら、こちらをじっと見ている。半透明に透き通っていてとても生身の人間とは思えないが、たしかにふたりの姿だった。
「お母さん! さやか!」
サイラスは叫んだ。ユウキのカッカラにはたくさんの遊環が嵌っている。その中のひとつが母で、ひとつが姉のさやかなのだ。
ユウキがキラキラ光るカッカラを振り回すと、母とさやかの姿が揺らめきながら大きくなったり小さくなったりする。
やがて「母の加護、姉の慈悲」と唱えてユウキが錫杖をシャランと振ると、ふたりの姿は静かに消えていった。
「サイラス、私はふた月は滞在するから、滞在中に錫杖術を教えてやるよ。霊力はすぐに必要になる。私もそうだったから…」
ユウキは有無をいわせずにそう言って、サイラスを見た。
「僕にも霊力があるの?」
「当然ある。お前と私は同一人物だからな。…サボらず鍛錬しろよ!」
錫杖術を教えてもらえるのはありがたい。だけど、「すぐに必要になる」というのはどういう意味? たくさんの疑問が湧いてくる。まだまだこちらの世界の知識が足りていない。
「ユウキのカッカラ、どうしてお母さんとさやかが…?」
「お前のカッカラについている遊環はまだ二つだけだろう?」
ユウキは腕組みしたまま、サイラスの質問はサラッと軽く流す。
たしかに、僕の錫杖には遊環が二つしかついていない。ユウキは僕のことにずいぶん詳しいみたいだ。
「霊力が増すと遊環も増えていく。私も最初は二つきりだった。母と姉のご加護しかなかった。……あれは当然母でも姉でもないが、私たちを守ろうとするふたりの気持ちが、こちらの世界で具現化しているものだと思う」
(どういうこと?)
言うまでもないことだがと前置きして、ユウキは「前世の記憶については他言無用だぞ?」とサイラスに釘を刺してくる。
「この世界には前世や生まれ変わりという概念はないからな! 兄上やオリバーに無駄な心配をかけるなよ?」
ユウキはきっぱりと言い切る。まぁ、僕だって前世の話なんてするつもりないけどね。
「そういえば、アトス寺院で小姓をつけるんだろう?」
「あ、まだ誰にするか決めてなくてさ…」
「タママがいい、タママにしなさい!」
えっ、ユウキ、僕の小姓まで選ぶつもり? 前世の僕って、こんな強引なヤツだったか? もっとフレンドリーで優しいゆうきくんだったよね?
「アレは心がきれいだから、サイラスに合っている」
「…えーと、ユウキはタママを知ってるの?」
「そりゃ、アトス寺院で働いていたからな! タママは当時二歳くらいだったか?」
赤ん坊なんて、たいてい素直で心がきれいなモンじゃないか? 他人の小姓を適当に選ぶなよ。
「あのさ、小姓は力仕事も多いから、体格のいい子を選びなさいって主事に言われたんだけど…」
「そうか? タママはきっと小柄に育っているだろう。まぁ、お前も小柄だし問題ないよな?」
「………」
「タママは訳ありの子で、寺院と親元を行ったり来たりさせられていた子供だ。日本の言葉でいうと、育児放棄に近い」
訳ありの子をわざわざ小姓に選ばなくても…と思ったが、ユウキの強い推薦で小姓はタママに決まりそうだ。
「タママのことはずっと気がかりだったんだ。お前だって、事情を知ったら小姓にしたくなるはずだ。…俺たちは同一人物だからな!」
そこまで言ってから、ユウキは自分の部屋に飾られている結婚記念の絵姿に目をやる。
「……飾ったのか? これを」
そこには金髪の美しい女性と並んでいるユウキの姿があった。ふたりはにっこりと微笑んでいる。
「はぁ…。これを飾るのはやめてほしいと言っているのに。シオドアも懲りないな!」
「ユウキ、金髪美人と結婚できたんだね?」
サイラスが言うと、ユウキは少しだけ胸を張る。
「まぁな。実物のシャーロッテの方が、この絵姿よりもずっときれいだよ! だから私はこの絵があんまり好きじゃないんだ!」
えっ…そういう理由? 恥ずかしいとかじゃなくて? ユウキって、本当に僕なのか? 日本にいた頃と性格が違いすぎない?
恥じらいとか謙譲とか、ゆうきの中の素晴らしい部分は全部僕の方にきちゃったのかもしれないね!