魔王秘書は魔王を殺しました〜勇者一行編〜

エピソード8:賢者

「や、ルイスさん。こんな時間にどうかしましたか」
「……眠れなくて。オーナさんも、ですよね。今、お時間ありますか」
「確かにこんな時間にここにいるなら俺も眠れてないか。時間、ありますよ。何かありました? ルイスさん」
「何か、というか、何もというか……」
「ああ、もしかして、勇者一行に入る系の話?」
「…………まあ」
「お疲れ様。賢者は昔も今も最終防衛ラインだねぇ」

 勇者一行の一員として召集され、魔王アルレスト討伐と魔王軍殲滅のための旅を始めて早1年半。魔王軍にそこまでの敵意も他意も悪意もないのではないかと思い始めて半年。魔王アルレストが先代勇者アレスト・オーナとの面識があるのではないかと疑って早8ヶ月。

 その日、私は始めてオーナさんと一対一で話していた。

「…………言いたいことがあるなら早く言って欲しいけど、ルイスさんが僕に言いたいことについてはもう少ししたら、皆に説明するから待っててもらえないかな」
「魔王アルレストとの関係も、ですか」
「うーん、まあ、そうだね。というか、そこまで分かってるなら待ってられるよね」

 ああ、この人は勇者一行全員の隠し事にも気付いているのだろうと私が気付いたのはサラが始めてオーナさんに助けられ、コゥルがオーナさんからブースティングストーンを渡された頃だった。
 よくよく考えれば、私達と初めて会った頃から彼は思わせぶりなことを言っていた。全員でいるときにはあまり言わなかったが、個々人と話すときには度々、思わせぶりなことを言っていた「らしい」。
 私自身は確証が得られるまで彼を避けていて、彼もそれを察してか私と距離を取っていたらしく、このときまでは一対一で話したことはなかった。

「…………あなたの考えていることは未だに分からない。でも、あなたには敵意がないことだけは分かる」
「それはありがたい」
「だから、あなたが自分から話すまでは待っています」
「優しいな、ルイスさんは」

 招かれた貴族の屋敷。眠れない夜。バルコニーに出ながら、グッスリ寝ている面々の様子をそこから遠目に見ていれば、側の森から聞き覚えのある声が聞こえた。そちらを見ればオーナさんの姿。もう、実力を隠さなくなってきたなとこのときから、思っていた。
 考えれば、後々、勇者一行に正体を明かそうと考えている魔王が1年半も勇者一行と仲良しこよしをしていれば、実力を隠す必要なんてなかった。

「タカ師匠もだったけど、君達賢者は勇者一行の頭脳だ。最終防衛ラインだ」

 タカ師匠。その呼び方に目を見開いたが、何故、彼がそういうふうに呼ぶのかは聞かない。魔王にだって幼少期はあるから、そのときにもで師匠に教わっていた時期があったのだろうとこのときはそう考えて、特にその呼び方を気にはしなかった。

「勇者が心臓。剣士が腕。魔法使いが胴体。盗賊が内蔵。賢者が頭脳。薬師が思考。聖女が魂。暗殺者が足。それでいて魔王はバイキン」

 オーナさんの言葉に目を見開く。その言葉は私の師匠である、ユーリ・タカが死ぬ前まで学舎で良く言っていた言葉だった。
 勇者一行のそれぞれの役割。心掛けること。勇者一行を身体で例えるのであればと日々、あの人はそう口にしていた。
 「賢者であれば、勇者一行の頭脳であれ」と。あの人は日々、そう言っていた。学びを深め、仲間を支えよと。

「あの人はいつも、ずっとそう言ってた。昔から」
「…………何故、あなたはあの人達のことをそこまで」

 聞き覚えのありすぎる言葉に夜空を見ていた視線をオーナさんに向ければ、彼は小さく頬をつり上げて笑っていた。
 その顔は昔のことを懐かしそうに思い出しているようにも見えた。

「魔王と勇者一行なんてそんなもんなんだよ」

 もう、その言葉はほぼ告白をしているようなものだった。

「だから、君達(勇者一行)は一心同体。それを忘れちゃダメだよ」

 その言葉の真意を、私はそのときに問うていれば良かったとずっとずっと、後悔している。
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