そこに愛は?

3.やり直しデート



 
 ***
 
 秋空の日曜日――
 日向との二回目の“デート”は、前回と同じ待ち合わせ場所から始まった。

 『誰かに会うかもしれないし、別の場所で待ち合わせした方がよくない?』
 事前にメールで確認した。
 『大丈夫じゃないかな。もし誰かに会ったら俺が説明するよ』
 日向の返事は相変わらずのんびりしたものだった。
  
 以前、職場での噂についてメールした時も同様だった。
 
 ……私が、考えすぎてるの?
 自分だけが大袈裟なのだろうかと思ったら、ちょっと悔しくなり、夏樹はそれ以上心配するのを止めた。
 
 
 夏樹は時計を見るついでに、今日着ているきれいめのコーデを確認した。
 前回の日向が思いのほか大人っぽかったため少し寄せてきたのだ。
 
「夏樹!」
 日向を待っていると、ひしめく人の波から名前を呼ばれた。
 懐かしいその声に慌てて顔を向けた。
 転勤していった先輩だった。
晴美(はるみ)先輩! おひさしぶりです!」
 入社したての頃、法律知識やビジネスマナーを叩きこんでくれた人だ。不意の再会に胸が躍った。
「待ち合わせ?」
 晴美が少し気まずそうに目を伏せたのは、夏樹が光琉と別れたことを知っているからだろう。
「はい。同期と。ちょっと事情がありまして……」
 夏樹は、『光琉のことは過去です』と伝えるように、すっきりとした笑顔を返した。
 晴美の表情がほっとしたように和らいだ。
「先輩は旦那さんとデートですか?」
「ううん、友達と。――それより」
 晴美が一瞬言葉を詰まらせ、悔しそうに唇を噛んだ。
「苦労してるって聞いてるよ」
「えっと……」
 異動のことだろう。
「一類で入ってきたあんたが会計課に出戻りだなんて、誰が納得するっていうのよ。順当なら主任になっててもおかしくないのに」
「私なんてまだまだです。それに会計課も楽しいですよ。市民とも触れ合えますし」
 夏樹は半分だけ本音を口にした。
「冗談やめなさい。あんたの能力がもったいないわ」
「……」
 夏樹は、ぽりぽり、と指の腹で頬を掻いた。
 評価されることは素直にありがたかった。
 晴美が舌打ちしながら言った。
「あんたを会計課に戻した連中、まだ人事に口出してる」
「……あ」 
 重苦しい気持ちがこみ上げてきた。
 夏樹自身、組織の闇に触れるつもりはなかった。だが気づいてしまったことを“気づかれた”――仕方がなかった。
「ぜったい引っ張ってあげるから。待ってなさい」
 晴美は生活安全部サイバー犯罪対策課にいる。
「ありがとうございます」
 自分を案じてくれるその気持ちだけで、十分な慰めになった。
 
 
「――あ、先輩、お友達がいらしたみたいですよ」
 こちらを見てそわそわしている女性に気づき、晴美に教えた。  
「ほんとだ! じゃあ、夏樹、またね」
「はい。また」
 手を振り合って見送った。
 入れ違いに、日向が雑踏から真っ直ぐに向かってきた。
 !
 はっとして、晴美を見遣った。
 晴美が日向を目で追っている。
 それに気づいた日向が会釈している。

 ……晴美先輩、私と日向君を結びつけないよ、ね?
 一抹の不安とともに見守った。

「――」
 日向が手を振ってきた。
 無邪気なそれに、ハラハラした。

「結城さん、遅れてごめんね」
 日向が夏樹の前で足を止めた直後、晴美も人波に消えていた。 
「……」 
 気づかれたような気もするし、気づかれていないような……。
 ええい、もう知らない。

「大丈夫よ! 早く、行こう!」
 夏樹は日向の腕を掴んだ。
「……」
 無意識に掴んでしまったことに遅れて意識がついてきた。
 そっと離した。
 意外なほど引きしまった筋肉はシャツの上からでも分かる。
 夏樹は少し、どぎまぎした。

 日向がちらちら、と夏樹を見下ろしていた。
 その視線を受け、夏樹も日向を見上げた。
「――似合ってるね、今日も」
 なぜだか目が泳いでいる。
「ありがとう。日向君も……」
 と言いながら、色を合わせたみたいなカップルコーデになっていることに気づいた。
 たぶん日向もそこに意識が向いたのだろう。
「なんか、すごい偶然だね。打ち合わせしたみたい……」
 夏樹は気恥ずかしくなり言い訳のように言ってから――いや、結果オーライじゃない? と思い直した。
「今日はきっとうまくいくよ、私たち」
 日向に向かって親指を立てた。 


 
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