そこに愛は?
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……昨夜もやってしまった。
開けっ放しのカーテンから容赦なく入ってきた朝に、夏樹は目を擦った。
ソファの上から起き上がる。
ゆるいウエーブのロングヘアをくいっとまとめた。
床に転がっている缶ビールをいくつか持ってキッチンへ向かう。
……片付けてる暇はない。
シャワーを浴びないと。
夏樹は壁の時計を見ながら時間配分を組み立てる。
朝ごはんは――うん、間に合わないな。
身支度を優先した。
光琉に振られてから、夏樹の夜はアルコールと映画に埋め尽くされた。
――「周りには俺から話すよ……俺が悪いから、なっちゃんに迷惑掛からないようにするから」
その言葉を受け入れたものの、光琉はなかなか自分たちの破局を口にしなかった。
夏樹から周囲に告げてもよかった。
けれど誰も彼も、夏樹と光琉を“おしどり夫婦”のような目で見ていたし、『別れた』のひと言で納得してもらえるはずがなかった。
別れた理由を、振られた本人が語らなければならないなんて、想像しただけで憂鬱になる。
そうやって一日一日、別れた事実が引き延ばされ、夏樹はひとりの部屋でアルコールに頼るようになっていた。
“隠し続けているのはつらい”
“早く楽になりたい”
その気持ちの一方で、いつもと変わらない毎日が夏樹に希望を抱かせることもあった。
“もしかしたら光琉は後悔しているのかもしれない”
“やり直そうと言い出したいのかも”
けれど、それは単なる妄想に過ぎないことも分かっていた。
別れてから、光琉からの連絡は一度もない。
部屋のそこかしこにあった光琉の私物はすべて光琉が持ち帰った。夏樹も、手元に残っていた思い出――ふたりの写真から一緒に買った枕カバーまで――すべてゴミの日に捨てた。
そう、『別れ』は現実だ。
夏樹は今も、何度でも思い返す。
『他に好きな子が出来た』と言われたあの日のことを。
なのに、それと同じくらい、これまで浴び続けた愛の言葉も思い出した。
……やめ、やめ!
夏樹は片手で頭の横を払った。
ようやく光琉が別れについて話したのだ。正直、待ちくたびれたけれど、これで前へ進める。進まなければ。
玄関の鏡で身だしなみをチェックし、夏樹はドアを開けた。
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「おはよう、結城さん」
「!」
雑踏の中、ふいに挨拶を受けた。
足を緩めて声の方へ顔を向けた。
「日向君、おはよう。寝坊?」
……と聞いてはみたものの、日向は高級そうなロングシャツを軽やかに羽織って、サラサラの黒髪を風に揺らしている。
「いや、いつも通りだよ」
日向は爽やかに笑った。
そんなはずはない。自分が職場へ着く時間帯、日向はすでに制服姿でフロアにいる。
……でも、どっちでもいいか、と引いた。
日向が横に並んだ。先に行く気配はない。
「……なかなか涼しくなんないね」
気まずさから、雑談を向けた。
「早くエアコン使わない季節になるといいね、結城さんのためにも」
「?」
「席、エアコンの正面でしょう。時々、腕さすってるから」
といって日向は手のひらで腕を上下して見せた。
「おはよう!」
警察署の通りで舞華が手を振っていた。
夏樹は足早に近寄った。なぜか日向もついてくる。
「昨日ごめん。寝落ちしちゃってメール返せなかった」
片手で謝った。
酔っぱらったことまでは言わなくてもいいだろう。
舞華は昨日、退社と同時に駆けて行った。
「あいつに吐かせるからねっ」と言い残して。
「日向君も一緒だったんだ」
「山口さん、おはよう」
日向は丁寧に言って一緒に足を止める。
舞華は一瞬不思議そうにしたが、それどころではないらしく、すぐに声が向かってきた。