ハ シ ル !
第一話「代表決定した人」
チャイムが鳴ってから、気付けば一時間近く経っていた。
私は、広げていたノートをカバンにしまい、まだ数人が残る自習室をあとにした。
下駄箱を出ると、見慣れた紫色のジャージの集団が目に入る。
背中には“track and field club”と書かれている。
一瞬止まった足が、自然と彼らとは反対方向に向いた。
こっちからだと、駐輪場まで遠回りなのに。
私はもう、あのジャージを着ることはない。
そう思っていた。
少なくとも、あの日までは。
夜は肌寒い日が増え、ようやく過ごしやすくなってきた10月。
学校から帰宅した私に父が差し出したのは、「代表決定」と書かれた2枚のハガキだった。
「やだ。親子で走るの?いいわね」
母がハガキを覗いて言った。
私は思わずそれを父の手から奪い取る。
「はっ?なにこれ。補欠っていう約束で名前貸したんだけど」
そう言って、父を睨むような視線を向けた。
「約束はした」
「じゃあなんで……」
「出る予定の子、怪我だって」
父は、脱いだスーツの背広を片腕にかけた。
ゆるめたネクタイは、いつか私が父の日にあげた物だった。
「怪我? 意味わかんないし……」
奪い取ったハガキをもう一度見る。
何度見ても「代表決定」と書かれている。
「それが補欠だろう」
父はそう言い残してリビングを出ていった。
「……なにそれ」
母が洗濯物を伸ばす音だけが響くリビング。
私は「ご飯いらない」とだけ言って逃げるように自分の部屋にいった。
勢いよく部屋のドアを閉めると、クローゼットの扉が揺れる音がした。
制服のまま、ベッドに寝転がる。
最悪だ。
最悪、最悪、最悪、最悪。
——もう、辞めたのに。
本棚の一番上には、いくつものトロフィーとメダルが並んでいた。
「……うるさいよ」
私は勢いよく起き上がると、その全てを裏返した。
私は、広げていたノートをカバンにしまい、まだ数人が残る自習室をあとにした。
下駄箱を出ると、見慣れた紫色のジャージの集団が目に入る。
背中には“track and field club”と書かれている。
一瞬止まった足が、自然と彼らとは反対方向に向いた。
こっちからだと、駐輪場まで遠回りなのに。
私はもう、あのジャージを着ることはない。
そう思っていた。
少なくとも、あの日までは。
夜は肌寒い日が増え、ようやく過ごしやすくなってきた10月。
学校から帰宅した私に父が差し出したのは、「代表決定」と書かれた2枚のハガキだった。
「やだ。親子で走るの?いいわね」
母がハガキを覗いて言った。
私は思わずそれを父の手から奪い取る。
「はっ?なにこれ。補欠っていう約束で名前貸したんだけど」
そう言って、父を睨むような視線を向けた。
「約束はした」
「じゃあなんで……」
「出る予定の子、怪我だって」
父は、脱いだスーツの背広を片腕にかけた。
ゆるめたネクタイは、いつか私が父の日にあげた物だった。
「怪我? 意味わかんないし……」
奪い取ったハガキをもう一度見る。
何度見ても「代表決定」と書かれている。
「それが補欠だろう」
父はそう言い残してリビングを出ていった。
「……なにそれ」
母が洗濯物を伸ばす音だけが響くリビング。
私は「ご飯いらない」とだけ言って逃げるように自分の部屋にいった。
勢いよく部屋のドアを閉めると、クローゼットの扉が揺れる音がした。
制服のまま、ベッドに寝転がる。
最悪だ。
最悪、最悪、最悪、最悪。
——もう、辞めたのに。
本棚の一番上には、いくつものトロフィーとメダルが並んでいた。
「……うるさいよ」
私は勢いよく起き上がると、その全てを裏返した。