わすれもの

 私は府中駅を降りた。
 改札口は北を出る。
 意味はない。
 用がない時は、決まって北口に足が向いてしまう。
 この年齢になっても未だに、誰かが待っているんじゃないかな、とバカみたいなことを考えている。
 夢みたいなことを今でも考えてしまう。
 もしかしたら、【あの時間】も、夢だったんじゃないかと思ってしまう。
 でも、確かに。
 確かにその時間はあったんだ。

 駅を出ると、ぱっと右目に青い空が入って来て、遠くに緑が見える。
 今日は少しだけしか見えない。
 いや、そんなものは見えてなかったのかもしれない。
 記憶なんてあいまいで、過ぎ去ってしまうもの。

 だから、ずっと昔のことなので覚えてないけれど、今、あの感覚はどこでも、いつでも自分の中にある。
 それでも。
 詳しく言えないけど、今の景色は昔と違う。
 過去の記憶は鮮やかなはずなのに、どうしても詳しく思い出せない。

 胸がきゅっとなったので、引き返す。
 また駅の中に戻る。
 他人から見たら不審者に見えてしまうかもしれない。
 迷子みたいかもしれないけれど、この年齢では誰もそう思ってくれないだろう。

 迷子。
 そう、あの日も迷子みたいだったかもしれない。
 15歳になる年の夏。
 僕は迷子みたいにしていると、向こうから彼女がやってきたんだ。
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