わすれもの
11
次男は、セミや馬が好きになる前は、電車が好きだった。
自宅のそばに、電車が走っている。
角度によっては3路線見える。
ちっちゃい次男を連れて、思う存分電車を眺めさせていたものだ。
走っていく電車を何本も眺めていると、胸がきゅっと苦しくなる。
藍色と茜色の混ざった空だった。
彼女と手をつないで、分倍河原駅へ歩いて行った。
何も話さなかった。
何も話せなかった。
嫌な気まずさじゃない。
その気まずさは、駅の近くのざわめきが、気持ちを楽にしてくれた。
駅が見える。
改札が近づく。
券売機の前。
彼女と手をつないだまま。
「もうお別れだね」
彼女はふふっと笑った。
今の私なら、泣いて離したくないって言うと思う。
あの日の僕は、そんなことはできるはずがない。
でも、彼女の手を離したくない、と言う気持ちは本当だった。
僕は、「もう少しだけ」って言った。
彼女は、「もう少しだけね」って言った。
なんとなく、線路の向こうへ渡る橋の上にいた。
電車が何本も通り過ぎていく。
彼女は、
「いつになったら帰る?」
と聞いてきた。
僕は、
「電車があと10本通ったら」
と言った。
彼女は目を丸くして、笑ってくれた。
二人で電車の数を数えていた。
一本、二本。
何を話していたか覚えていない。
大したことは話していなかったはずだ。
ただただ、通り過ぎる電車の数を数えていた。
特急が通り過ぎたら、
「特急はなし!」
って駄々をこねた。
彼女は優しく笑ってくれた。
10本数えた後、手を離す。
現実に戻ったような合図だった。
彼女と改札を通る。
言葉を交わした後、それぞれ別のホームに分かれて行った。
自宅のそばに、電車が走っている。
角度によっては3路線見える。
ちっちゃい次男を連れて、思う存分電車を眺めさせていたものだ。
走っていく電車を何本も眺めていると、胸がきゅっと苦しくなる。
藍色と茜色の混ざった空だった。
彼女と手をつないで、分倍河原駅へ歩いて行った。
何も話さなかった。
何も話せなかった。
嫌な気まずさじゃない。
その気まずさは、駅の近くのざわめきが、気持ちを楽にしてくれた。
駅が見える。
改札が近づく。
券売機の前。
彼女と手をつないだまま。
「もうお別れだね」
彼女はふふっと笑った。
今の私なら、泣いて離したくないって言うと思う。
あの日の僕は、そんなことはできるはずがない。
でも、彼女の手を離したくない、と言う気持ちは本当だった。
僕は、「もう少しだけ」って言った。
彼女は、「もう少しだけね」って言った。
なんとなく、線路の向こうへ渡る橋の上にいた。
電車が何本も通り過ぎていく。
彼女は、
「いつになったら帰る?」
と聞いてきた。
僕は、
「電車があと10本通ったら」
と言った。
彼女は目を丸くして、笑ってくれた。
二人で電車の数を数えていた。
一本、二本。
何を話していたか覚えていない。
大したことは話していなかったはずだ。
ただただ、通り過ぎる電車の数を数えていた。
特急が通り過ぎたら、
「特急はなし!」
って駄々をこねた。
彼女は優しく笑ってくれた。
10本数えた後、手を離す。
現実に戻ったような合図だった。
彼女と改札を通る。
言葉を交わした後、それぞれ別のホームに分かれて行った。
