わすれもの

10

 京王線分倍河原駅。
 今では特急が止まるけれど、昔は急行止まりだった。
 準特急が止まるようになった時は驚いたな。
 改札を出て見上げると、喫茶店があった。
 改札を出ると、左手に花屋があった。
 どちらとも、もうない。

 あの時の僕らは、分倍河原に向かって歩いていた。
 夏の夕方はまだ明るい。
 だけど、辺りが少しずつ暗くなっていく感じ、一日が終わっていく寂しい感じになっていた。
 彼女とは、信号が少なくて、人通りが少ない道を真っすぐ歩いて行った。
 どんな会話だったかな……
 たった5歳の隔たりも、子供には大きな隔たりになる。
 僕は、知らないことを埋める様に。
 彼女は、過ぎ去ったことを埋める様に。
 なんでもない話をしていたと思う。
 情報の非対称性を埋める様に話していた、と難しく思ってしまう今の私は、無駄に大人になってしまったかもしれないと思うと、どこかに何かを置いてきた気持ちになる。

 通り過ぎる人から見たら、姉と弟に見えただろうか。
 空の色が寂しくなっていくと、別れもさらに寂しくなる。
 なんだか、もったいない、と言う気持ちになる。
 つい最近まで、大きな接点のなかった二人だから、いくらでも話題があるわけじゃない。
 話が途切れてしまう時だってある。
 僕は、場を見て話せるタイプだと思ってる。
 年齢が違っても、気を遣えるほうだと思っているけれど、あの時は言葉が出なかったんだ。
 なぜだろう。
 夕焼けがロマンチックだったから?
 それは違うと思う。
 空の藍色に、魔力があったんじゃないのかなって思ってる。

 僕らは、同時に言葉に詰まってしまった。
 ちょっと長い。
 僕はうつむいていた。
 その時、僕の右手の人差し指が、彼女の左手の小指に当たった。
 こつん、と。
 ちょっと気まずく思ったから、余計に下を向いた。
 彼女はこっちを見たと思う。
 二人とも言葉はなかった。
 彼女は、何も言わず、僕の手を握った。
 どくん、として、彼女を見たけれど、彼女は僕を見ないで、真っすぐ向いていた。
 何も話さず、彼女はこちらを見ず、駅へと向かっていった。
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