チャラ男も笑えば雑巾に当たる


「っ……い、犬井くん、その……ご、ごめん、なさい……」


やっとひねり出した声が発せられたのは彼が目と鼻の先に近づいた時だった。


「放課後ひとりで裏庭に来い」


私にしか聞こえないくらい小さな声で、そう言った気がした。


「……え?」


ほうかご?ひとりで?うらにわに?こい?

放課後の裏庭なんて誰も来ないよ?
というかそもそも放課後じゃなくても裏庭なんて用務員さんが年に数回草刈りするくらいで普段からひと気ないって。

そんな場所にひとりで来い、と……?


「返事は」

「は、はいっ」

「ん、よろしく」


ぺち、と右手に雑巾を握らせてサッと離れていく犬井駆。

いつのまにか普段の柔らかい空気をまとう犬井駆。

そしてヘラっとした口調で「はやくそーじしよー」とうながす犬井駆。

何が起こったのかよくわかっていない教室の生徒たちは立ちつくす私と元いた所へ戻る犬井駆をぽかんと見つめる。


< 14 / 192 >

この作品をシェア

pagetop