未完成のワンフレーズ
「―――」
雨音に混ざって彼女の歌声が聞こえる。
その声はあまりにも悲しげで、聞いているだけで胸の奥をぎゅっと締め付けられた。
「⋯⋯駄目だ、駄目だなぁ⋯⋯⋯」
どれだけの時間、一人で雨に打たれていたんだろう。
どうしてもっと早く気づいてやれなかったんだろう。
こんなに身体を震わせて、涙か雨か分からない水で顔を濡らして。
「李仁みたいに、歌えないやぁ⋯⋯あいつが、いなくなったら⋯私思い出せなくなる⋯⋯っ」
一度、自分の過去を忘れた彼女だから、あの子との思い出を失うことを恐れる。
李仁、君は本当に幸せだったんだな。
いいや、違うな。
君は幸せすぎるんだ。
「紗綾ちゃん、一緒に李仁のところに行こう。会って、言えていないことを言いに行こう」
「せ、んせー⋯⋯?」
なんで俺がここにいるかって?
君がいきなり病室からいなくなって、心配になったからだよ。
いつの日か、君は俺に「自分はなんで生きているのか」って聞いてきたな。
まるで自分には生きる価値がないみたいな言い方で。
この世に生きる価値がない人なんていない。紗綾ちゃんも、李仁も、皆生きていることにこそ価値があるし、生きていて良いんだよ。
「寒かっただろう? 風邪を引いちゃ、辛いじゃないか」
だからこっちにおいで――。
そう言って両腕を広げると、まだ幼い少女は泣きながら飛び込んできた。