未完成のワンフレーズ
「だから⋯起きてってばっ」
少しずつ薄くなっていく酸素濃度。不整脈? ってやつがずっと続いてる。
せんせー達、仕事に戻るって言ってたけど、今も病室の前にいるよ。
李仁が起きるのを、皆待ってるんだよ。
「⋯⋯や、⋯⋯⋯さ⋯」
「っ⋯⋯! 李仁っ」
声が聞こえた気がして、慌てて顔を上げれば、
薄っすらと開いた目が私のことを見ている。
「⋯⋯が、と⋯」
「何? なんて言ってるの? 私、ここにいるから」
握っていた手をぎゅっと握って何かを伝えようとしている。
私は一文字も聞き逃したくなくて、そっと顔を近づけた。
「⋯⋯ありがと、紗綾」
先、越されちゃったなぁ。
「俺、今度こそ――紗綾を笑わせられた」
笑うって、こんなにも胸の奥が暖かくなるんだね。
今までずっと、笑っても何かが違う気がして。私じゃない誰かが笑っている気がして。
この瞬間、私は心の底から笑えたんだ。
「ずっる⋯⋯ずるいよ、李仁」
なんで最後の最後でカッコつけちゃうかなぁ。
私は笑わせてほしいんじゃなくて、笑ってほしかったのに。
李仁は、寂しかった?
ずっとずっと、寂しかった?
貴方のお母さんも、お見舞い来てくれなかったね。
私達って、嫌なとこばっかり似てる。
「⋯⋯しあわせだ⋯⋯⋯」
ずっと、李仁はそう言ってくれていたんだね。
私が見ていない所で、聞いてない所でそう言っていたんだ。
「私も幸せだよ」
李仁に出会えて、最期まで一緒にいられて。
楽しかったよ。
ギター教えてくれて、ありがとね。
このアコースティックギター私がもらってもいいかな。弾ける曲、全然ないけど。
「―――⋯⋯」
ピーーーーーー。
病室に心肺停止を告げる発信音が鳴り響く。
繋いでいたはずの手も一方的に私が握るだけで。
私は病室に入ってきたみっちゃん達に引き剥がされるまで、ずっと李仁の手を握っていた―――。