未完成のワンフレーズ
Epilogue
 

「紗綾姉! 今日は何の曲を演奏するのー?」


少しずつ暖かくなってきて、中庭ではちらほら桜が咲き始めていた。


「今日もいつもの曲だよ」

「他の曲はないのー?」

「私、この曲しか弾けないんだ」


寒い寒い冬の夜。

目の前で永遠の眠りについた大切な人は、私に曲という贈り物を残して逝った。


私はあれからずっとギターを弾き続けてきたけど、あいつが作った曲以外弾くつもりなんてない。


「ずっと、気になってたんだけどよ。その曲なんか長くなってないか?」


そう言って私を上から見下ろしてきたのは、少し窶れた顔をしたタケちゃんだった。


「ふふふ、気づいたー? 作ってみたんだー、続き」


私はいつまでも未完成で良かったんだけど。

何処かの誰かさんがお願いするものだからさー。作らないわけにはいかなかったんだよね。


『⋯⋯強いて言うなら―――曲の続きがほしい』


そう言ったあいつは、真っ直ぐと私の目を見ていた。


「ま、続きって言ってもコードを並べただけだけどねー。私作詞とかできないし」

「それなら、お前があいつと過ごした時間でも歌詞にしたらどうだ?」


実体験の方がリアリティが出る、って何処かのタレントが言ってたっけ。

でも、作詞か。


私、どっちかって言うと聞く専門みたいなとこあるし、

続き作るのも四ヶ月近く使ったし。


「できるかなぁ⋯⋯」


過ごした時間で言えば数カ月程度だけど、その中身は一生忘れられないくらい濃くて。


ほんの三分程度の曲の中に描ききれるのかな。


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