ありがとう。大嫌い。
中庭の真ん中で振り返ると、勝手口を塞ぐようにして白衣姿の男が立っていた。
穏やかでありながら、何処か胡散臭い笑みを浮かべてる。
「四宮せんせー⋯⋯」
四宮せんせーは私の担当医。
⋯⋯うーん、少し違うかも。
精神病を患う私の専属カウンセラー。
「駄目だろう。勝手に外に出たら」
「だって病院の中はつまんないんだもん」
「この間新しいゲームをあげただろう」
「もうクリアしちゃった」
今から二年前。
十三歳の時に、私は解離性障害というものを発症した。
理由は忘れた。
解離性障害ってのは、過去に強いショックとかを受けて、それらから自分を守るために周囲から自身を遠ざける病気らしいけど。
私は珍しい症状があるらしく、それが発症の原因であろう出来事を忘れていること。
解離性障害を発症するくらいなんだから、相当なショックを受けたはずなんだけど。
今じゃ、四宮せんせーから貰ったゲームを二日や三日でクリア出来ちゃうんだもん。
私って、本当は病気じゃなかったりして。
「うぇ⋯⋯っ」
「紗綾ちゃんっ⋯⋯!」
足から力が抜けてその場に崩れ落ちれば、次に襲ってくるのは強い吐き気。
「い、いや⋯⋯や⋯⋯あ、あ」
「紗綾ちゃん。紗綾ちゃん!」
「うぐっ⋯⋯⋯う、うぅ⋯⋯」
やっぱり、私は病気だった。
普普段は忘れているのに、ふとした瞬間思い出しちゃう。
二年前の、“あの日のこと”を。
「ゆっくり、ゆっくり息を吸うんだ。俺が誰か分かるか?」
激しく上下する肩を抑えて四宮せんせーは囁きかける。
その時々に、携帯電話で院内にいる医師達に状況を説明する。
私は四宮せんせーの腕の中で、ひたすら荒い息を吐いた。